2016年12月に読んだ本2017年01月08日 07時50分00秒

 blog読んでいただいている方には一目瞭然ですが、『この世界の片隅に』の物語解析にハマってしまい、読書数は少なめ。とはいえ、12月は生まれて初めてのtwitter古本オフ会@神保町 などもできて楽しかったですね。

■麻生 みこと『小路花唄』1巻 (アフタヌーンKC) 講談社
読了(2016-12-17) ☆☆☆☆

 麻生みことのこれまでのところ最高傑作と信じて疑わない『路地恋花』シリーズ(全4巻)のスピンアウト作品がスタート。「路地」から職人商売を始めて独立する店主の多い中古参となってしまった靴職人のヒロインをメインに、本シリーズと同様にオムニバス形式でゆったりと語られる物語がなんともいとおしい。

■森 薫『乙嫁語り』 9巻 (ビームコミックス) KADOKAWA
読了(2016-12-18) ☆☆☆☆

 お互いに不器用な二人がさまざまなハプニングを経て愛を深めていく展開が、個々の「事件」はちっとも色っぽくはないにも関わらず、なかなか胸キュン。森薫ノリノリだなあ。
 それにしても、未だに前巻比で絵の緻密さが増してきている。番外編的な4コマの中の絵までちまちまと緻密に描きこまれていて、森薫のフェティッシュ作画が止まらない。この人はどこまで行くんだ(笑)。

■福田 和代『碧空のカノン: 航空自衛隊航空中央音楽隊ノート』 (光文社文庫)」 光文社
読了(2016-12-18) ☆☆☆☆

 他の作品はほとんど未読ながら(「本の旅人」の連載を部分的に読んだ程度)、硬派なスパイものとか、そういうイメージで定評のある著者の、まさかの自衛隊ラブコメ。といっても、有川浩の自衛隊ラブコメとは異なり、舞台は航空自衛隊中央音楽隊。これがまた、有川浩に匹敵するラブコメぶりでにまにま(笑)。とはいえ、ストーリーは北村薫ばりの「日常の謎」ミステリとして練り込まれており、いずれもちょっとじんわりする仕掛けもある。秀作。
 ところで、別作品の取材の際に航空自衛隊のリアル「空飛ぶ広報室」の方から「実は音楽隊というのがあるんですが…」と紹介されたのが本作のきっかけだったとか。取材時期からすると、この広報室の中の人、もしかして有川浩の相手したのと同じ人だったりするのだろうか。だとしたら大変なやり手!?

■『この世界の片隅に』製作委員会『この世界の片隅に 劇場アニメ公式ガイドブック』 双葉社
読了(2016-12-28) ☆☆☆☆

 突貫で出版されたためか若干の誤字はあるものの、前半部と後半部に分けたフィルムストーリーとスタッフ、キャスト、原作者等々への充実のインタビュー、その他設定情報、諸々の資料から背景美術や服飾設定などのビジュアル面まで、このコンパクトな本の中にこれでもかと詰め込まれている。ロマンアルバム的なムックはこれまでにも種々買っているが、「情報量」という点ではここまで詰め込まれたものはなかなかない。映画を観て気になるところがある方は、原作とこれを座右に置くべし。

■バリントン・J・ベイリー『時間衝突【新訳版】』 (創元SF文庫) 東京創元社
読了(2016-12-30) ☆☆☆☆★

 内容をほぼ忘れ切っていたので、この作品の驚きを初読と同じく味わえたのは年寄り故の僥倖か(笑)。なるほどこれは、ベイリーがたびたび扱った「時間」テーマの中でも破天荒さ、スケール感、小技的なアイデアの豊富さ、ストーリーのスピード感など、まさにワイドスクリーンバロック。「服飾」というアイデアがやや変化球的だった『カエアンの聖衣』と比べるとSFとしてど真ん中豪速球! これこそまさにベイリー最高傑作といっていいのではないか。
 そして、この時間理論とプリースト『夢幻諸島から』の世界観の共通点に気がつけたのは個人的収穫。いずれも、「世界」にはもともと「時間」はないか、止まっているんだけど、人間の「意識」が「時間」生み出しているのではないか、という点では実はかなり近い世界観かもしれない。ベイリーの場合は「世界」を伝播する「波」の上に知的生命が発生して「時間」を観測しているが、プリーストの場合は世界を「観測」するのが個々の人間である、ということではないか、とか、ちょっと考えたりした。

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