2017年12月に読んだ本2018年01月01日 20時36分47秒

12月も多忙気味で読書は低調。それでも、プリーストはなんとか年内に読了。

あと、ながらく使っていたmixiのアプリ「ソーシャル・ライブラリー」が新刊登録できなくなったので、読書メーターに移行してみました。星つけ機能がないのがちょっと慣れないけど、過去のメモもちょっとずつ移植中です。

12月の読書メーター
読んだ本の数:4
読んだページ数:1336
ナイス数:32

小路花唄(2) (アフタヌーンKC)小路花唄(2) (アフタヌーンKC)感想
☆☆☆☆
ヒロインの靴職人の仕事人生の転機?を描きつつ、前作『路地恋話』の「あのカップル」のその後もわかる第2巻。靴造りのウンチクも楽しい。
読了日:12月19日 著者:麻生 みこと


隣接界 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)隣接界 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)感想
☆☆☆☆
遅ればせながら『隣接界』読了。独立しても読める中編にプリーストの旧作ほぼすべての要素がちりばめられつつ、「隣接」というキーワードでゆるやかにつながりあい、ささやかな愛が成就する。
読了日:12月24日 著者:クリストファー プリースト


ぬるい眠り (新潮文庫)ぬるい眠り (新潮文庫)感想
☆☆☆☆
わりあい落穂拾い的で初期短編も多いのだが、いろいろな意味でアブナイ短編で構成されている。通して読むと、思い煩うことなく愉しく生きよ、が通底するテーマに感じられる。
読了日:12月31日 著者:江國 香織


「食の職」新宿ベルク: 安くて本格的な味の秘密 (ちくま文庫)「食の職」新宿ベルク: 安くて本格的な味の秘密 (ちくま文庫)感想
☆☆★
こだわり人物伝としては面白く読んだ。
読了日:12月31日 著者:迫川 尚子

読書メーター

2017年11月に読んだ本2017年12月04日 20時29分29秒

 11月は趣味ではなく本業の方のコンベンションイベントの運営でどたばたしていて、月前半はほとんど読書が進まず。12/3の名古屋SF読書会に向けて、後半でちょっと巻き返したか。

■「この世界の片隅に」製作委員会 『この世界の片隅に 劇場アニメ原画集』 双葉社
読了(2017-11-14) ☆☆☆☆

 11/12でついに公開1周年。おめでとうございます。
 ということで、11/12で丸1年の連続上映を終了する新宿テアトルに(たまたま東京に滞在するタイミングだったので)駆け込みで鑑賞に行ってみたり(と、いってもイベントなしの通常上映にて)、あと、クラウドファンディング第2弾の海外渡航報告会に行ってみたり。
 そんな中、今月は関連書籍としてこの原画集が刊行。一部は公開前のササユリカフェの展示でみたものもあったけど、これだけまとめて観れると壮観の一語。巻末インタビューでは製作中の長尺版の話が出ているのも心強い。

■マージェリィ・W. ビアンコ・酒井 駒子『ビロードのうさぎ』 ブロンズ新社
読了(2017-11-18) ☆☆☆☆

 クリスマス向けの絵本売り場で猛プッシュされていた絵本。出版から10年、クリスマス絵本の定番であり続けているようだ。
 幼い少年のいちばんのお気に入りのビロードのうさぎのぬいぐるみをめぐる、ちょっと悲しい物語。そういえば、うちの実家にも、真っ黒になったパンダのぬいぐるみとか、まだ残っているなあ…

■伊藤計劃『ハーモニー』 早川書房 (ハヤカワ文庫SF)
読了(2017-11-18) ☆☆☆☆

 12/3の名古屋SF読書会の課題図書ということで、優先的に読んだ。単発でも読めるが、まず驚くのが、これが『虐殺器官』の世界のその後で、ディストピアの方向性として、その2作が両極に振り切っている、という点。
 もう1点、冒頭からhtmlもどきのetml言語による「タグ」が本文全体に付されているのが最大の仕掛け。最後まで読んで、そのetml言語の意味するところがわかることで生まれる異化効果こそが、個人的には本作の最大の読みどころだと思っている。
 とはいえ、このetmlの仕掛け、htmlをエディターで直書きした世代じゃないと、わからない可能性があるかもしれない(笑)。

■そのだ えり『ちいさなりすのエメラルド』 文溪堂
読了(2017-11-24) ☆☆☆☆

 いつもに絵本を読んでもらっていたりすのエメラルド、困ったことに、絵本を読んでもらわないと眠れない。一人になった夜、眠れないエメラルドは絵本を持って町のあちこちへ。
 そこで出会ういろいろな動物の子供たちに絵本をよんで聞かせるが、読み聞かせの途中で寝てしまっているエメラルドがお話しできるのは、自分が寝る前までのお話まで…
 絵本の読み聞かせそのものを物語にしてしまったかあいらしい小品。エメラルドが読んでもらっている物語の続きが気になる読者のために、その物語も付録?でついているという親切設計。

■ひかわきょうこ『魔法にかかった新学期』 1巻 白泉社(花とゆめCOMICS)
読了(2017-11-24) ☆☆☆

 ひかわきょうこ12年ぶりの新作とのこと。そういえば、このところ『お伽もよう綾にしき』のシリーズが描き継がれていたのだったか。
 『彼方から』も現代の高校でスタートしつつも、すぐに異世界に舞台が映ってしまったので、現代の高校生たちが活躍する物語はもしかして『女の子は余裕!』以来だったりするのか。
 物語は安定のひかわきょうこ品質。続巻は1年後。のんびり待ちたい。

■藤野千夜『編集ども集まれ!』 双葉社
読了(2017-11-25) ☆☆☆☆

 おそらく、永井豪『激マン!』に触発されて描かれたマンガ編集者視点での『激マン!』。作者本人がダイナミックプロ系ではなく手塚治虫のファンであることから、タイトルは『人間ども集まれ!』の本歌取りだろう。
 大人の事情で作者とその周辺の人物、該当の出版社のみ仮名ではあるものの、それ以外はマンガ、芸能、音楽、神保町のお店など、あらゆるものが実名で登場するので、80年代後半から90年代中頃までと、本作が執筆された2016年当時のマンガ界隈の風俗記録としてなかなか貴重な作品になっていると思う。

■こうの史代『ぴっぴら帳』 前編 双葉社
読了(2017-11-25) ☆☆☆☆
■こうの史代『ぴっぴら帳』 後編 双葉社
読了(2017-11-30) ☆☆☆☆

 新装版が出ていたので購入。実は未読だったのだが、『この世界の片隅に』原画展などを観てから読むと、改めて、画力の確かさに驚かされる。特に扉として縦長半ページで毎回描かれているイラストの今にも動き出しそうな躍動感や、カラーページで、淡い色を最小限にのせて描かれる多彩な表現は、この時点ですでに完成の域に達している。この画力、表現力あっての、後の数々の実験手法なのだな、と、納得。
 作品としては、鳥を飼う生活を始めたヒロインのとぼけた生活が描かれる4コマ。すずさんではないが、あちゃあ顔はたっぷり堪能できる(笑)。

■『The Indifference Engine』 伊藤計劃 早川書房 (ハヤカワ文庫SF)
読了(2017-11-29) ☆☆☆☆

 読書会の予習、副読書として、文庫で出た時に買ったままだった本書も手にとってみた。
 最初は、落穂拾い的短編集かと軽い気持ちで読み始めたら、読み進むごとに各短編のテーマ、モチーフ、アイデアが輻輳的に響きあう印象で、これはなかなかの名アンソロジーではないか。
 生体にソフトをインストールする、というアイデアのバリエーションとして、『ハーモニー』が生まれ、さらに『屍者の帝国』に展開して行ったことも、この短編集を読むと納得できる。

2017年10月に読んだ本2017年11月01日 21時09分40秒

 10月はものすごく久しぶりに京都SFフェスティバルへ。いちばんのお目当てはジーン・ウルフ企画だったが、レム企画も、3Dアニメ企画も、伊藤計劃以後は終わった(笑)企画も、それぞれに楽しめた。
 最近SFセミナーは昼企画のみにしたりしているが、今回は合宿も参加。久しぶりにまったりと楽しんだ。とはいえ、日付が変わる頃にはだいぶ体力を消耗(笑)。
 とはいえ、東京出張の翌日が京フェス、その翌週も1泊2日の東京出張あり、さらに翌週には謎の岡山出張もあり、あちこち行ったり来たりの慌ただしい月ではあった。

■細馬宏通『二つの「この世界の片隅に」―マンガ、アニメーションの声と動作―』 青土社
読了(2017-09-23) ☆☆☆☆★

 マンバ通信でのWEB連載中から楽しみに読んでいた細馬宏通氏の『この世界の片隅に』原作〜映画比較論。これはもう、いろいろな意味で名著。
 自分もこのblogの『この世界の片隅に』私論のために、けっこう読み込んだつもりではあったが、本書を読むと、まだまだ気がついてなかった要素がちらほら、もっとマンガを読んで、もっとアニメを観たくなる一冊。
(実は9月に読んでいたけど、先月分で書き忘れていたので、こちらに(笑))

■ジェームズ・モートン『世界に通用するビールのつくりかた大事典』 エクスナレッジ
読了(2017-10-22) ☆☆☆

 最近翻訳されたホームブルワー向けのビールの教科書。
 化学的に不正確な記述はあるものの、醸造学、微生物学、および衛生面で実用上は問題ないというか、そこまでやらんでも、というくらい詳しいのでちょっと感じ入っている。
 酒税法上、日本のご家庭ではやっちゃいかんが、国内のクラフトブルワーの方々が参考書とするにはよさそうに思う。

■ジョー・ウォルトン『わたしの本当の子どもたち』 東京創元社(創元SF文庫)
読了(2017-10-22) ☆☆☆★

 一人の女性の「選択」で分岐した世界を交互に語っていくという物語の形式としてはもう一つの『エロス』(広瀬正)と言えるが、意識の混濁が世界の混濁につながるというアイデアの点ではプリースト的要素もあるように思った。
 そして大野万紀さんが指摘している通り主人公はすずさんと同年代(一つ下、ということはすみちゃんと同い年)なのもいろいろ考えさせられる。

■七月鏡一・早瀬マサト『幻魔大戦 Rebirth』6巻 小学館(少年サンデーコミックススペシャル)
読了(2017-04-22) ☆☆☆

 ついに6巻。謎の異次元空間「幻魔領域」での東丈の彷徨。平井幻魔なら、東丈が消えた後の世界を語ったが、本作はどこかに消えた東丈の物語を実直に描く。
 また月が落ちてこないように、みんな、コミックスを買おう(笑)!

■北村薫『太宰治の辞書』 東京創元社(創元推理文庫)
読了(2017-10-31) ☆☆☆☆★

 ハードカバー版が新潮社から出たのは、作中で新潮社と新潮社の昔の本が重要な役割をしていたからだったのだろう。
 文庫は古巣の東京創元社から、ではあるが、本書執筆後の裏話を語るエッセイや、若き日の円紫さんが描かれた番外編的短編などを収め、口絵には作中に登場する書物の実物の写真もあり、いわば『太宰治の辞書・完璧版』。ハードカバーで読んだ人も、これは買わねば。

2017年9月に読んだ本2017年10月09日 07時53分34秒

 9月は実家との移動で始まり実家との移動で終わるというスケジュール面と、仕事がだいぶ立て込んできたりして、ちょっと少なめ。

■おーなり 由子『ことばのかたち』 講談社
読了(2017-09-02) ☆☆☆☆

 自分の読書歴の中では、まずはりぼんの(ちょっとふしぎな作品を描く)マンガ家として、その後は北村薫作品の装丁で再会したけど、絵本作品をほとんど読んでいなかったおーなり由子さんの絵本を試しに読んでみた。
 この本は、一人の女の子が「ことばに目に見える形があればいいのに」と、いろいろと夢想するシチュエーションを淡々と目に見える絵として提示していく。
 人が発する言葉には裏がある、表向きの言葉だけではわからない、時には、騙す/騙されることも、傷つける/傷つけられることもある。そんな言葉に隠されたもの、発した人の本心がわかりやすく目に見えたら、傷つくこともなくなるのに。女の子がそんなことを考えてしまうのは、まさにこれから「言葉」で心をやりとりすることが待っていたから…
 おーなり由子さんのやさしい視点が感じられる一冊。
 因みに、北村薫作品の装丁では『水に眠る』『月の砂漠をさばさばと』が好き。

■ミロコ マチコ『まっくらやみのまっくろ』 小学館
読了(2017-09-02) ☆☆☆

 初めて読むミロコマチコ。へたうま?的だけど、荒々しいタッチと目を射る色彩の変化がふしぎな不穏さを漂わせる。
 まっくらやみの中で、自分が何者か知らぬまま、身体の変化に、「自分はもしかして……だったのか?」と思うまっくろ。そんな予想をつぎつぎと裏切りつつ変化し続けたまっくろはついには…
 単独で読んでもいいけど、『けもののにおいがしてきたぞ』(このあと、図書館で読んだ)から続けて読むと、最後に明らかになるまっくろの正体についての味わいが増すように思う。

■ユヴァル・ノア・ハラリ『サピエンス全史(下)文明の構造と人類の幸福』 河出書房新社
読了(2017-09-05) ☆☆☆☆

 上巻でも紹介した通り、ホモ・サピエンスがどうやって地球に君臨するに到ったか、可能な限り特定の価値観、宗教観、政治観に左右されずにロジカルに描くノンフィクション。
 既存の「定説」「固定観念」的なものを次々とひっくり返していく価値観の相対化が本書の最大の魅力ではあるが、上巻から下巻に入るくらいになると、やや一本調子に感じてくる側面もある。
 最後にはシンギュラリティに行き着くあたりがSFっぽくもあるが、もしかすると現代のガーンズバック的にも読める作品だったりするのかもしれない。

■成田美名子『花よりも花の如く』 17巻白泉社 白泉社花とゆめCOMICS
読了(2017-09-10) ☆☆☆★

 静かな恋愛が落ち着いた時期に入ってくると、今度は一度「わかりあった」「うちとけた」フェイズから、「わかってもらえている」ことからの行き違いのフェイズに。
 本気で取り組む仕事と私生活をいかに両立させつつ、どちらもスパイラルアップしていく、というライフワークバランスについての物語になりつつあるのかも。

■ジーン・ウルフ『書架の探偵』 早川書房 新☆ハヤカワ・SF・シリーズ
読了(2017-09-17) ☆☆☆★

 ジーン・ウルフ最新作は、生前の作家の人格、記憶を移植された複製体(リクローン)が、本と同列に(モノとして)図書館に所蔵されている、という未来世界で、ある女性に借り出されたミステリ作家の複製体が、その女性の周辺で起こる殺人事件の謎を巻き込まれるままに解決していくと言うハードボイルド風SFミステリ。
 この複製体(叢書ならぬ蔵者)の設定以外は、SFとしてもミステリとしてもちょっと懐かしい雰囲気で、伏線がきちんきちんと回収されてするっと読めてしまうんだけど、ええと、これ、ジーン・ウルフだよね!?
 すんなり読め過ぎてしまって逆に不安になる(笑)。気がついてないこと、どこかに何かあるんじゃないか!?

2017年8月に読んだ本2017年09月03日 13時19分54秒

 8月も冒頭から北海道出張とか、次の論文の執筆とか、いろいろあって少なめ。
 そういえば、5月に始めたシミルボンでは、初めて「おすすめ連載」に紹介してもらいました。

◆『絵本と出会う週末』
https://shimirubon.jp/series/277

 あと、このblogで連載?した『『双生児』ひみつぶっく』もシミルボンに移植しましたが、物語構造一覧を連載の回が進むごとに増補改訂するようにしたので、blogで既に読まれている方も是非。
https://shimirubon.jp/series/262


 ということで以下は8月に読んだ本。

■『ありがとう、うちを見つけてくれて 「この世界の片隅に」公式ファンブック(アクションコミックス)』 こうの 史代・他 双葉社
読了(2017-08-01) ☆☆☆☆★

 熱い寄稿、インタビュー、対談が続いた後の、ラストに配置された原作者こうの史代先生へのインタビューの内容が努めて冷静で、そこまでの熱量にあてられた後では、一服の清涼剤のように感じられた。
 実はそんなこうの先生からのもう一つのメッセージがあるので、これから読まれる方は、まず、カバーはつけたまま最後まで読み、その後にカバーを外してみることをオススメしたい。

■『ぶどう酒びんのふしぎな旅』 藤城 清治 講談社
読了(2017-08-05) ☆☆☆☆

 アンデルセンの物語の中でも、これは比較的マイナーなものなのではないだろうか。
 ワインのボトルが、あくまでも流されるままにさまざまな遍歴をへる。
 その遍歴は不思議な経過をたどるものの、全体に、さほどドラマチックなことがおこるわけでもない。子供向けというより、人生の哀歓を描いた物語はむしろ大人向けかもしれない。

■『火うちばこ(アンデルセンの絵本)』 ハンス・クリスチャン アンデルセン 小学館
読了(2017-08-05) ☆☆☆

 目がこわい。その目で見ないで! と、思わず言いたくなる絵本である。
 本書はたまたま旅先で立ち寄った図書館の絵本コーナーで見つけたのだが、ある程度の年代の人なら、この物語は、小学館のオールカラー版世界の童話『アンデルセンの絵話』で読んでいるのではなかろうか。
 自分も、表紙で目の大きな犬がお姫様を背中に乗せているのを見て、「あ、あの話だ」と思い出した。目のぎょろっとした3匹の犬が印象的で、子供心にもあの目はこわかった。

■『あとは野となれ大和撫子』 宮内 悠介 KADOKAWA
読了(2017-08-11) ☆☆☆★

 一見大喜利ネタとしか思えないタイトルが、読み進むにつれて重層的な意味を獲得していく。
 あと、文庫化の際は是非森薫さんに表紙を依頼してほしい。

■『僕の恋人がカニ目になってから』 吉田 匠 二玄社(エンスー文庫)
読了(2017-08-15) ☆☆☆

 「カニ目」とは、懐かしのオースチン・ヒーリー・スプライトの愛称。CGライターとして著名な著者のスポーツカー遍歴をまとめた初の単著。
 出版されたのはいわゆる「NAVIオピニオン」華やかなりし頃の二玄社から。古本で買って長年積読だったのを、ふと思い立って読了。
 クルマの話がメインではあるが、今読むと、統合前の欧州の空気感を感じるエッセイとしての読み方もできる。しかし、これが出た時の氏の年齢をとうに自分が追い越していたのは軽くショック。

■『サピエンス全史(上)文明の構造と人類の幸福』 ユヴァル・ノア・ハラリ 河出書房新社
読了(2017-08-30) ☆☆☆☆

 ホモ・サピエンスがどうやって地球に君臨するに到ったか、可能な限り特定の価値観、宗教観、政治観に左右されずにロジカルに描くノンフィクション。
 この世界のおよそあらゆる価値観、先入観を、わかりやすい例をあげてひとつひとつつぶしていく。こういった「認識の変革」はSFをよく読む人には一般的だと思うが(なので、納得感はあるが、予想したほどの驚きはなかった)、こういった相対化が広く読まれることには意義があると思う。
 あと、いろいろとケン・リュウ作品との共通点を感じるので、ケン・リュウファンの人には副読本としていいかも。

2017年7月に読んだ本2017年08月11日 08時29分54秒

 7月は国内での研究会の講演1件、海外での講演1件で、その準備に追われる日々。その中では、数的にはわりと健闘はした方かも(笑)。まあ、すぐ読める絵本とかが多いけど(笑)。
 あと、5月以降、遅ればせながら書評サイト「シミルボン」にレビュウ、コラムを書くのが楽しくなってしまって、blogにまとめる前にネタを使ってしまうことも(笑)。
 まあ、文章なるべくだぶらないよう多少の工夫はしてます。リンクから該当の本のレビュウも読んでみていただけるとさいわいです。
 それにしても、7/下から8/上まで、2週間で自宅に4日くらししかいなかったというのは前代未聞のハードスケジュールで疲労困憊。あらためて、連日国内外を飛び回ってトークショーやサイン会をこなしながら、BD版のリテイク作業までこなしていたという片渕監督の超人ぶりに舌をまく。

■『オール・クリア(上)』 コニー・ウィリス 早川書房 (ハヤカワ文庫SF)
読了(2017-07-02) ☆☆☆☆
■『オール・クリア(下)』 コニー・ウィリス 早川書房 (ハヤカワ文庫SF)
読了(2017-07-06) ☆☆☆☆★

 上巻クライマックス?の12/29大空襲は、焼夷弾、大火災、少年消防士など、呉空襲との共通点が多いので(概ね、片渕監督のトークで得た知識だが)、『ブラックアウト』から引き続き、臨場感と、地続き感がある。
 奇しくも上巻を読んでいたのが呉空襲のあった7/1-2。しかも、片渕監督がロンドン空襲関連のツイートをTLに流すのをたまに読みながらの読書は、謎の臨場感。
 まさに、このロンドンの片隅に。
 それから、シリーズ通して重要なモチーフとして扱われている演劇『十二夜』と『真面目が肝心』の観劇経験があったのは、このシリーズを読むには基礎知識としてよかった。
 下巻に入ってからの終盤は、全編に散りばめられたピースが次々にカチカチとハマっていく中、最後の最後に、あんな仕掛けがあるとは。すべての登場人物たちに幸あれ。

→シミルボンコラム「このロンドンの片隅に」
https://shimirubon.jp/columns/1683510

■『すばこ』 キム・ファン ほるぷ出版
読了(2017-07-08) ☆☆☆☆

 絵本としてよし、理科(生物学や生態学など)の啓蒙書としてもよし。鳥好きドイツ人のベルレプシュ男爵が自分の領地の森で鳥に来てもらう方法をいろいろと試行錯誤して、ついに、巣箱を考え出す。その巣箱が巣箱が普及していくまでを描くのが主眼の絵本だが、画面の隅々に描かれるさまざまな鳥や巣箱のバリエーションが楽しい。

→シミルボンコラム「知らなかった巣箱の歴史」
https://shimirubon.jp/reviews/1683545

■『はいからさんが通る 新装版』(1) 大和 和紀 講談社(KCデラックス デザート)
読了(2017-07-10) ☆☆☆

 小中学生の頃以来の再読か。内容はけっこう覚えているが、今読むと細かい仕込みやギャグが昔より楽しめるかも。
 新装版の仕様で各巻に対談や解説が付されているが、今回は著者とと山岸凉子先生との深い関係がいろいろ語られる対談がよかった。

■『はいからさんが通る 新装版』(2) 大和 和紀 講談社(KCデラックス デザート)
読了(2017-07-11) ☆☆☆

 内容は覚えているのだが、そういえば2巻ではもう少尉行方不明になってたんだった。現代のマンガと比べるとやっぱり展開早い印象。
 因みに、3、4巻まではすんなり買えたんだけど、5巻以降が通販では品切れが続く。アニメ化の影響というよりヅカの影響らしい(笑)。

■『どこいったん』 ジョン・クラッセン クレヨンハウス
読了(2017-07-15) ☆☆☆☆
■『ちがうねん』 ジョン・クラッセン クレヨンハウス
読了(2017-07-15) ☆☆☆☆
■『みつけてん』 ジョン・クラッセン クレヨンハウス
読了(2017-07-15) ☆☆☆☆

 ぼーよーとした動物たちが「ぼうし」をめぐってあれこれする有様を(翻訳絵本なのに)関西弁で語る異色の三部作絵本。
 何かを独り占めしたいという「物欲」の行き着く先を、教条的ではなく、その結果おこってしまう出来事で淡々と描くのがポイント。三部作の完結編ではじめて「物欲」以外の視点がもちこまれて、ちょっとほっとする。

→シミルボンコラム「なんでやねん」
https://shimirubon.jp/columns/1683676

■『あめのひに』 チェ・ソンオク ブロンズ新社
読了(2017-07-15) ☆☆☆★

 大雨、洪水は子供にとっては非日常の、一種のお祭りだったりするものだが(『パンダコパンダ雨ふりサーカス』とか『崖の上のポニョ』などがそのお祭り性を表現した作品かと思う)、それを素直に表現した秀作絵本。

→シミルボンコラム「こんなあめふりならいいのに」
https://shimirubon.jp/reviews/1683678

■『掟上今日子の裏表紙』 西尾 維新 講談社
読了(2017-07-19) ☆☆☆

 今日子さんが獄中から推理を展開する一編。
 密室殺人の容疑者として収監された状態から探偵活動を成立させるために、これまでのシリーズに登場したキャラクターが影に日なたに奔走する中盤あたりまでは「なるほどこうきたか」という展開が多くて楽しめたのだが、オチはちょっと拍子抜けだったかも。
 とはいえ、記憶喪失探偵を成立させる思考実験、今回もそれなりに楽しみました。

2017年6月に読んだ本2017年07月02日 08時46分22秒

6月は、ちょっと本業が立て込んできたので、ただでさえ読むのが遅いところ、さらにペース落ち。

■恩田 陸『蜜蜂と遠雷』 幻冬舎
読了(2017-06-04) ☆☆☆☆★

 4人のビアノの天才たちが奏でる多幸感あふれる四重奏。それぞれの演奏を文字で、文章でエモーショナルに描写する手法も「聴きごたえ」があり、多幸感にさらに拍車をかける。
 天才といえども、本番のコンクールまでにはむしろ常人以上の努力をしているし、それでも、それぞれの不安は残したまま臨む本番(除く1名)。その本番で、すべてを吹っ切り、あるいは、他の天才の演奏にインスパイアされ、本人も予想していた以上の名演奏が生まれる。その相互の影響が、予選から本選にいたる過程でさらに響きあい、お互いを高めあっていく。そして、コンクールの終わり(物語の終わり)は、これからの物語の「始まり」を暗示する。
 普通の作劇なら、コンクールに至る過程の不安や葛藤を主軸に据えると思うのだが、この物語は、選び抜かれた天才たちがお互いを高めあっていく姿をひたすらポジティブに語っていく。そして、それがまた心地よい。

■三上 延『ビブリア古書堂の事件手帖7 ~栞子さんと果てない舞台~』KADOKAWA (メディアワークス文庫)
読了(2017-06-07) ☆☆☆

 ひとまずは完結。思ったよりあっさり終わった印象かな。今回のお題はシェイクスピアのファースト・フォリオ。
 因みに、そのシェイクスピアのファースト・フォリオ、この後読むコニー・ウィリス『ブラックアウト』にさらっと出てきたけど、ちょうどその予習になったかも(笑)。

■石森章太郎『あしたのあさは星の上』 Pヴァイン(ele-king books)
読了(2017-06-12) ☆☆☆☆

 石森章太郎のSF絵本の復刻版。もともとは盛光社の「創作S・Fどうわ」から1967年に出版され、その後、1977年にすばる書房から復刊されたとのことだが、それ以来復刊されていなかったのは、主人公の坊やにさまざまな物語を語りかけるのが黒人の「チョコレートじいや」だったからだろうか。
 物語は5話構成で、ちょっとSFオカルト的な味わいのある「ぼうしが空をとんできた」から始まり、聖書の創世記とギリシャ神話のイカロスがまざったような、人の肌の色の起源についてのほら話「よるの色ひるの色」、UFOが残していったなぞの物体をめぐる、ちょっと「路傍のピクニック」を思わせる「空とぶえんばん」、地球滅亡への導入話「ねずみがいなくなった」、そして、太陽の爆発がせまる中、救出に来た宇宙人の前で人間たちが繰り広げる愚行を辛辣に描きつつ、ささやかな救いを用意する表題作「あしたのあさは星の上」まで、SF童話短編集としてもバラエティ豊かで、色鉛筆や水彩でざっくり描いた絵が彩りを添える。

■木村 研『999ひきのきょうだいのおひっこし』 ひさかたチャイルド
読了(2017-06-17) ☆☆☆

 たまたまガソリンスタンドの待ち時間に読んだ絵本。
 999個のたまごから孵った999匹のおたまじゃくしがかえるになり、小さな池はあふれかえらんばかり。
 ということで、お父さんとお母さんの先導で、999匹はひっこしを始めるのだが、その行く手には危険がいっぱい!?
 なかなかほほえましかったので、かえる好きの方にはオススメしたい。

<参考:シミルボンに投稿した上記絵本2冊のレビュウ>
https://shimirubon.jp/series/277
…なんだか興が乗ってきたので連載にしています(笑)。

■コニー・ウィリス『ブラックアウト』(上) 早川書房(ハヤカワ文庫SF)
読了(2017-06-25) ☆☆☆★

■コニー・ウィリス『ブラックアウト』(下) 早川書房(ハヤカワ文庫SF)
読了(2017-06-30) ☆☆☆☆

 このシリーズはあまりの分厚さに、今まで手を出していなかったのだが、今回は文庫版を片渕監督の推薦帯目当てに購入。まず、SFセミナー会場で買おうとしたら、『ブラックアウト』上巻だけ品切れだったので、その後、渋谷のブックファーストで買い足した。
 上巻冒頭から。コリンくんの史実調査能力が某アニメ監督(笑)を連想させる詳しさでちょっとほっこりした。そして始まる1940年代のロンドンの日常。なるほどこれは『このロンドンの片隅に』だなあ。
 そして下巻に入ると、本格化するロンドン空襲シーンが怖い。映画『この世界の片隅に』の防空壕のシーンを体験した後では、臨場感が半端ない。
 ということで、6月は『ブラックアウト』まで。『オール・クリア』の感想は来月(笑)。

2017年5月に読んだ本2017年06月03日 07時37分39秒

 5月は主にたまっていた評論誌とケン・リュウ。ここには書いていないけど、SFセミナーで入手したはるこんブックス『天球の音楽』もセミナーからの帰途に一気読み。いやあ、次の短編集も待ち遠しいねえ。

■「フリースタイル35 「時間と空間をつくる」片渕須直×安藤雅司」 フリースタイル
読了(2017-05-06) ☆☆☆☆

 メイン企画の「片渕須直×安藤雅司・時間と空間をつくる」をお目当てに久しぶりに買ったフリースタイル。『この世界の片隅に』公開後、どんどん企画される片渕監督のインタビューや対談の中でも、もっともアニメ制作の「技術」にフォーカスした内容で、スタッフでアニメを観てしまうアニメージュ世代にとってはかゆいところに手が届く良対談。それ以外のコラム、記事も楽しく、一冊の隅から隅まで楽しみました。

■「ユリイカ 2016年11月号 特集=こうの史代 ―『夕凪の街 桜の国』『この世界の片隅に』『ぼおるぺん古事記』から『日の鳥』へ」 青土社
読了(2017-05-13) ☆☆☆☆

 出てすぐに買ったけど、思いのほか読み応えがあったので、まずはアニメ関連の記事、評論を読んだ後、ぽつぽつ読み進めていた。あらためて、こうの史代というマンガ家のすごさを実感した。読んでない作品もちょっとずつ補完していきたい。

■ケン・リュウ『もののあはれ (ケン・リュウ短篇傑作集2)』 早川書房
読了(2017-05-21) ☆☆☆☆

 新☆ハヤカワSFシリーズ版から2分冊された文庫の2冊目。叙情性や市井の視線〜ミクロの視線〜を感じさせる文庫版「紙の動物園」、と比べ、シンギュラリティテーマを中心に、宇宙、進化というマクロの視線に振り切ったSF作品集。こうしてみると、この2分冊はアンソロジーとして大正解だ。

■ケン・リュウ『母の記憶に』 新☆ハヤカワ・SF・シリーズ(早川書房)
読了(2017-05-27) ☆☆☆☆★

 待望のケン・リュウ日本オリジナル短編集の第二弾。偶然だが、母の日に所用で実家に向かう車中で読み始めた。各作品とも、この手できたか、と唸らされる好短編集ではあるものの、特に表題作や冒頭の数編は親子関係がモチーフで、シチュエーション的にちょっと複雑な気分で読み進めた。
 第一弾の『紙の動物園』(SF・シリーズ版)と比べると、やや長めの中編がいくつか収められていること、また『蒲公英王朝記』に通じる中国的な要素が色濃い作品の比率が高めで、「ケン・リュウ博覧会」的なバラエティ感としてはやや偏りを感じるものの、それでもなお、シンプルなアイデアSF、本格SFミステリから歴史小説、寓話的な小説まで、様々な作品が堪能できる。
 また、各短編の読後感がそれぞれに深く、傑作ぞろいであり、この中からベストを選ぶ、とするとおおいに悩ましい、贅沢な短編集である。

<参考:シミルボンに投稿したレビュウ>
https://shimirubon.jp/reviews/1682209

■佐藤ジュンコ『佐藤ジュンコのひとり飯な日々 (コーヒーと一冊)』 ミシマ社
読了(2017-05-29) ☆☆

 仙台のいくつかのお店で食べたり飲んだりする、ゆるいエッセイコミック。「コーヒーと一冊」というこの本そのもののコンセプト通り、一気読みするよりは、喫茶店にでも置いて、注文したコーヒーを待ちながらてきとうにめくったページを読むのにはいいだろう。

2017年4月に読んだ本2017年05月05日 17時23分43秒

 4月は呉弾丸ツアー(笑)とかいろいろあった割にはいろいろ読んだ、かな。まあ、小説成分は少なめだけど。

■こうの史代・蒔田陽平『ノベライズ この世界の片隅に』 双葉社(双葉社ジュニア文庫)
読了(2017-04-07) ☆☆☆

 呉への車中で読了。ノベライズとしてはまずまず無難で、可もなし不可もなしか。読んでいて思ったのは、小説として主筋を通すためにはアレ(察してください(笑))はやっぱり省略できないし、補足説明も必要だ(原作にも映画にもない裏話がある!)、ということがわかる感じの内容だった。
 一方、あれだけばっさりやって違和感なく観れてしまう映画版は、実はすごくトリッキーなことをしているのだ、と逆説的に実感できた。

■江國香織『なかなか暮れない夏の夕暮れ』 角川春樹事務所
読了(2017-04-11) ☆☆☆☆★

 旧作でいえば『薔薇の木 枇杷の木 檸檬の木』に近いだろうか。多数の登場人物の関係性が入り組んだ「恋愛運動小説」の系譜ではあるが、主要登場人物の年齢層が上がっているあたりは年齢なりの経験や視点が反映されてもいるのだろう。
 『薔薇の木〜』のような、小刻みに視点人物が入れ替わる構成の中に、主人公が没入して読んでいる本のエピソードが作中の現実と区別なしに挿入され、フィクションが現実を緩やかに侵食していくトリッキーな秀作。やっぱり江國香織は曲者だ。

■吉田秋生『海街diary 8 恋と巡礼』小学館(フラワーコミックス)
読了(2017-04-16) ☆☆☆☆★

 吉田秋生、もはや鉄板のシリーズの最新刊。普通に日常を過ごす人々が背景に持つ傷と向き合い、先に進んでいく姿をゆったりと描き続けてきた本作においては、「新しい命の誕生」もさまざまな影響をもたらす。
 画風の変遷という観点では、吉田秋生史上、実は今がいちばん少女マンガっぽい画風になっているかもしれない。『カリフォルニア物語』あたりのドライ感とも、『吉祥天女』あたりの大友克洋リスペクトなカチっとした絵柄とも、『BANANA FISH』後期あたりのシャープで耽美なタッチとも異なる曖昧さ、柔らかさを感じさせる画風が本作にはよく合っていると思う。
 そういえば、悲劇をことさらに強調せずに日々の暮らしを描いていく、というスタンスの点ではこうの史代作品とも通じるものがあるかな、と思ってしまうのは病膏肓に入るというべきか(笑)。

■『旅と鉄道 2017年 05 月号「鉄道×アニメ 聖地巡礼」』 朝日新聞出版
読了(2017-04-17) ☆☆☆☆

 鉄ちゃんじゃないので初めて買ったこの雑誌。表紙や巻頭グラビア特集は『君の名は。』なんだけど、『君の名は。』については、ほぼ鉄道が登場するシーンのスチール写真による特集で、モデルとなった電車や駅との対照も少なく、テキストも少ない。その一方で、『この世界の片隅に』に関しては広島、呉を『鉄子の旅』で有名な編集者が実際に探訪した詳細なレポート、市電車両や鉄道関連のもろもろに関する解説記事、囲みコラム、2泊3日の推奨ルートの提案まで、盛りだくさん。さらには、近年のアニメのキー作品群も多数取り上げており、大充実の内容。編集サイドの本気感が感じられる。

■国谷裕子『キャスターという仕事』 岩波書店(岩波新書)
読了(2017-04-19) ☆☆☆☆

 すみません。国谷さんのことはNHKのアナウンサーかと思っていました(実際はNHKと出演契約を交わしたフリーのキャスター)。ご本人のキャスターとしてのキャリアの開始から、クローズアップ現代の舞台裏、そして不祥事の顛末や降板の経緯に到るまで、ここまで書いていいのか、と思えるほど詳細に書かれている。日本の視点から見た国際政治史としても読めるのがすごい。

■ケン・リュウ『紙の動物園 (ケン・リュウ短篇傑作集1)』 早川書房(ハヤカワ文庫SF)
読了(2017-04-22) ☆☆☆☆

 新☆ハヤカワSFシリーズ版から2分冊された文庫の1冊目。バラエティ豊かなてんこもりの印象だったSFシリーズ版と比べ、表題作「紙の動物園」を含め、ノスタルジーを感じさせる物語、虐げれられた存在をめぐる物語などを集めることで、ややトム・リーミィ的な味わいを感じさせる短編集になった。あらためて、アンソロジーのセレクト、収録順の意義を感じさせられた。

■七月鏡一・早瀬マサト『幻魔大戦 Rebirth』5巻 小学館(少年サンデーコミックススペシャル)
読了(2017-04-22) ☆☆☆★

 過去の幻魔作品、石森作品、平井作品へのリスペクトが一巡し?かなりオリジナル要素が出てきた第5巻。そんな中でも、表紙にも登場するベアトリスの簪と元GENKEN愚連隊?の田崎の登場にぐっときた。

■デヴィッド・ビアンキ・関 美和『お父さんが教える 13歳からの金融入門』 日本経済新聞出版社
読了(2017-04-29) ☆☆☆

 金融関連の基礎知識を簡潔にわかりやすく紹介。
 おとなもよんだほうがいいとおもうよ。

■「ビール王国 Vol.14 2017年5月号」 ワイン王国(ワイン王国 別冊)
読了(2017-04-29) ☆☆☆★

 2回に分けてアメリカ特集とのこと。今回はアメリカンホップの総覧が大充実の内容。日本生まれのアメリカンホップ、ソラチエースの話も載ってます。
 因みに、ソラチエースの研究は今年の日本農芸化学会で大会トピックス賞をいただきました。

■那州雪絵『魔法使いの娘ニ非ズ』7巻 新書館(ウィングス・コミックス)
読了(2017-04-30) ☆☆☆☆

 『魔法使いの娘』から始まったシリーズの本筋たる父娘の関係をめぐる物語がついに完結。それは「人生」そのものをめぐる物語でもあり、大団円というより、割り切れないものも残しつつの一区切、その先の物語への余韻を残すあたりが那州雪絵品質。
 こういう物語の描き手って、少年マンガにも少女マンガにも青年マンガにもいないと思うんだよねえ…。次回作はどういう作品になるかわからないが、今後とも追いかけていきたい。

【私家版】細かすぎて伝わらないこの世界の片隅にの好きなシーン2017年04月29日 12時17分31秒

 twitterの『この世界の片隅に』応援トレンドとして「#細かすぎて伝わらないこの世界の片隅にの好きなシーン」ハッシュタグに投稿したツイートがちょっとたまってきたので、自分のツイートをまとめてみた(若干の所感や背景も追加コメントを入れてみた)。

■波のうさぎを描くシーンで、松の枝、松の葉、地面の草まで風で揺れてる。 宮崎駿が『トトロ』で当時やりたかったけどできなかったと言っていた描写はこういう感じだろうと思った。

(所感)『となりのトトロ』ロマンアルバムのロングインタビューでは、宮崎駿が木の葉や草の葉が風で揺れる様子まで描き込みたかった、という趣旨の発言をしている。次作『魔女の宅急便』では冒頭から草原の草が風にそよいでいるが、その演出を担当したのは若き日の片渕監督であろう。
 該当のシーンでは、本当に細部まで風で揺れている。アニメ撮影がデジタル化される前ではここまで手間をかけた動かし方はできなかっただろう。

■里帰りした浦野家で、すずさんの昔の習字や絵が壁のつぎあてに使われてるが、チラッとしか見えないけど、ふすまに貼られてる(ちゃぶ台のお父さんの後ろあたり)のはたぶん「ばけもん」の絵。もしかして後のばけもん=鬼イチャンを暗示?

(所感)絵コンテでは該当の「ばけもん」の絵は半分くらいに切られて壁の方に貼られているので、本編で「鬼イチャン」がいるべき位置の近くに「ばけもん」が配置されたことには何らかの演出意図があると考えてよいのではないか。

■原作ではわかりにくいけど、映画ではユーカリの樹皮が剥けて幹が木肌の色になっているところ。ユーカリの特徴ですね。

(所感)原作では意外とユーカリの登場箇所が少なく、また白黒なので幹の状態まではわかるシーンがない。このあたりは映画にする段階でしっかり考証されているのだろう。
 このユーカリについては別エントリにもコメントしました。
http://k-takoi.asablo.jp/blog/2017/01/28/8338051

■「自慢の竹槍があるじゃないですか」のやりとりの後ろで「あ〜、すずさん、またやらかしちゃった」という感じの顔してる晴美ちゃん。

(所感)まるで姉妹のように生活してきた二人のこれまでが窺い知れる演出。それだけにこの後の展開が…(涙)。

■空襲警報の中3人逃げている人影の1人が転ぶ時に女性の「きゃ」という声が小さく聞こえた。朝すれ違った挺身隊の子たちなんだと気がついたら涙が…

(所感)昨年12/3に片渕監督が浜松に来られた際のトークショーで、呉の報国隊の少女たちを作品の中に登場させて欲しい、という要望があり、物語の中で自然に登場させられるシーンとして、3人が病院に向かう朝の駅前を設定したとのこと。ここで彼女たちがうたっている歌は「悲しくてやりきれない」と同じサトウハチロー作詞の歌を選んだとのこと。
 なお、映画を観た呉の方の中からは、あの女の子たちを当時見た、というコメントもあったとのこと。

■アニメ版だと、慟哭の後、畑に咲いている花は晴美さんとの想い出の暗喩になっていることに7回目でやっと気づいた。
 右手が現れるシーン(原作から改変)の前に入る回想シーンともつながりますね。

(所感)ここは映画のオリジナル。周作が電話ですずさんを呼び出すシーンの前に、映画ではすずさんと晴美ちゃんがカボチャを収穫し、そのカボチャに晴美ちゃんの顔を描いている。
 慟哭のシーンの台詞の改変はよく語られているが、原作では慟哭しているすずさんの頭を右手が触れた後、枯れていたカボチャに花が咲いており、「右手の奇跡」?を思わせるが、映画では慟哭から顔をあげてカボチャの花を見て、夕食でいっしょに魚の絵を描いた晴美ちゃんを思い出したところで、いたわるように右手がすずさんのあたまをなでていくという演出になっている。

■鬼イチャンの南洋冒険記を描く右手が持っているチビた鉛筆には「ウラノ」の名前が(三文字全部は見えてないけど)。

(所感)これは原作準拠ですが、いずれにしても細かいですね。

■里帰りの時に産業奨励館をスケッチして自分の姿を書き加えたすずさん、後に焼跡に来た時の構図がそのスケッチと同じになっている。さらに、右手がヨーコ親子を描き出した構図も同じ。
 右手の描いた絵で、母親はヨーコと左手をつないでいる。そして実は、焼跡のすずさんから見て左手側に、ヨーコらしき孤児が既に描かれている。

(所感)晴美ちゃんと左手をつないでいれば、というのはすずさんが「選ばんかった道」、母と左手をつないでいたヨーコはその道の象徴か。この点についてはスガシカオさんの考察が深いです。
https://ameblo.jp/shikao-blog/entry-12228363796.html

■自分のモガ時代の服は物々交換に出したけど、「晴美の去年の服」は残していた径子さん。

(所感)その大事な形見の服を躊躇なくヨーコちゃんにあてがおうとする径子さんが好きです。

■ラストシーンの北條家の俯瞰でユーカリの木がもうない。劇中では端折られてるけど一月遅れの迷惑な神風の名残かな。(絵コンテには「崖崩山もだいぶ片付いている」との説明あり)

■映画では割愛されている円太郎父ちゃんの資材横領クワ(笑)がEDでしっかり実用に使われている。

(所感)この2件は割愛された台風が起こっていたことを示すもの。因みに、原作では台風の中すみちゃんの手紙を届けに来る郵便配達の女性は円太郎さんの無事の知らせを持ってくるシーンで出てきてますね。

■口紅で描かれた、幼いすずさんとリンさんが手をとりあって遊ぶ情景、あれは現実には交わされることのなかった「明日の約束」だったのでは。

(所感)これは原作の「りんどうの秘密」にはない。『マイマイ新子と千年の魔法』を再見して、上記の考察に思い至った後は、このシーンで涙が止まりません。冒頭のタンポポと「明日の約束」は二作を地続きに感じさせる象徴と思います。