2016年5月に読んだ本2016年06月14日 21時23分24秒

 5月はSFセミナーが(その後のオフ会含め)今年も楽しかったですね。ともあれ、仕事がばたばたしてきて、ちょっと冊数は少なめ。

■中村澄子・大里秀介『TOEICテストで目標点数を出したあとで、ビジネスで活躍するための英語勉強法』 講談社
 TOEICブロガーとして大活躍中の大里氏(会社の後輩にあたる)の新刊、ということで読んでみた。海外留学でも海外出張でも、「TOEICで学んだことを役に立てるのだ!」という強固な意志と行動力には頭が下がる…のだが、海外赴任時代の話がけっこう生々しい。そんないろいろな目にあっていたのか。
 共著者の中村氏の方はもともとTOEIC参考書の世界では著名とのことで、TOEICはある程度のスコアを出したら、実践的な英会話やビジネスメール等の学習に移行するべき、とのスタンス。そこをあえてTOEICで乗り切った経験者の体験談を配することで、英語学習の心構えを語るための本、という感じ。英語勉強法そのものを期待される向きにはやや焦点が違って見えるかも。

■萩尾望都『萩尾望都 SFアートワークス』 河出書房新社
 前に銀座の画廊でやったごく小規模な原画展からスケールアップした原画展を吉祥寺で鑑賞。この画集に収録された作品のかなりの部分は直に原画で観ることができた。当たり前の話だが、原画の繊細さはやはり生で観るにしくはない。
 因みに、原画を観て一番驚いたのは、魔王子シリーズの表紙はカラーで彩色した原画の上に色セロハンを貼ってあったという点か。あの不思議な効果はこんなシンプルな技法だったのか。あと、スターレッドと阿修羅王の原画をみると感動で目が潤む。

■吉本隆明(&ハルノ宵子)『開店休業』 プレジデント社
 吉本隆明生前最後のdancyu連載ミニコラム…というだけなら、内容的に単なるお年寄りの想い出話(しかも間違い、勘違い多し)で、おそらくなんてことないエッセイ集になっていたであろうところ、長女にしてマンガ家のハルノ宵子が全エッセイ(1回4ページ)に見開き2ページの注釈コラムを入れることで、本編エッセイの著者本人は意識していない「老い」や「勘違い」「間違い」が正され、また、親の「老い」を見守る視線が付加され、予想外に興味深い内容に化けている。ここでまた、ハルノ宵子のエッセイそのものも父親とは異なる個性や生活観の味わいがあるのがさらにいい。結果的父娘合作エッセイの妙。

■テリー・ビッスン『世界の果てまで何マイル』 ハヤカワ文庫SF
 古本屋でやっとみつけた。ビッスンの長篇。なるほどこれは『ふたりジャネット』『平ら山を越えて』収録のアメリカンほら話の系譜。
 個人的には、アメ車とラジオの組み合わせがキーとなるロードムービーということで、『ストレンジャー・ザン・パラダイス』から『ナイト・オン・アース(ナイト・オン・ザ・プラネット)』あたりのジム・ジャームッシュを思わせて、いい感じ。
 とはいえ、なりゆきのまま美少女と古いアメ車に乗り込んでの不思議なハイウェイ道中は、今ならクルマと女の子がキャッチーに描ける絵師の表紙と口絵でもつけてライトノベル文体で改訳して再刊するといいかも。
 ついでにいうと、すごく狭い世界観の中での創造主の孤独をめぐる青春物語、という点では、実は新井素子『いつか猫になる日まで』との共通点もあるように思った。

■ケン・リュウ『蒲公英(ダンデライオン)王朝記 巻ノ一:諸王の誉れ』 新☆ハヤカワSFシリーズ
 短編集『紙の動物園』ではテーマからアイデア、構成まで驚くほど幅広い短編のバリエーションを披露したケン・リュウの初長篇はなんと中国風の架空世界を舞台にしたシルクパンク武侠群像劇。二転三転する物語の面白さに一気読み。
 三国志っぽい骨格に独自の科学技術による兵器開発の味付けあり(このあたりがシルクパンクの所以)、メインの二人には自分探し青年の成長物語と貴種流離譚の要素もあり、一方、兵站をしっかり考証した丁々発止の軍略あり、様々な要素が万華鏡的に楽しめる。

■岸本佐知子『なんらかの事情』 ちくま文庫
 エッセイと思わせて斜め上の連想、奇想がどこに着地するか読めない不思議な小噺集。地下鉄車内で読み始めたらいきなり腹筋崩壊して不審者になりかけたので、我が家では危険物指定することとした。