2015年12月に読んだ本2016年01月17日 07時59分17秒

 師走だから、という訳では全然ないんだけど、12月はちょっと少なめ。まあ、『双生児』ネタで頭の中がぐるぐる回っていたけど(笑)。

■おのみさ『からだに「いいこと」たくさん 麹のレシピ』 池田書店
 昨今、怪しげな「酵素栄養学」がはばをきかせつつある。言説としてはもともとあったかもしれないのだが、流布が進んでしまったのはちょっと前の「塩麹」ブームあたりのように思う。当時、塩麹を礼賛する本の中のあまりにもでたらめな記述を読んで頭がくらくらしたものだが…
 なのではあるが、塩麹ブームの先駆け的な本書はしっかりした麹菌研究者の助言とやや専門的な参考文献(麹菌研究、酵素化学の大家である我が恩師の著書も引用されていた)をきちんと読みこなした上で、生化学的にも微生物学的にも酵素化学的にも正しい知識を平易に解説してくれている。
 こういう良貨といえる本が、雨後の筍のような悪貨に駆逐されないといいのだが…

■ジーン・ウルフ『ジーン・ウルフの記念日の本』 国書刊行会
 ジーン・ウルフのSF短編を集めた短編集なのだが、それぞれの短編を何らかの記念日に当てはめる短編集としての趣向が、独立した短編として読む場合以上に各短編の味わいも増していると思う。
 ジーン・ウルフが技巧を凝らしすぎた長編の読み応えがあり過ぎると思う向きには、適度な技巧で楽しめるSF短編をバラエティ豊かに楽しめる、こういう短編集はよいのではないか。
 個人的には〈戦没将兵追悼記念日〉にあてた「私はいかにして第二次世界大戦に破れ、それがドイツの侵攻を防ぐのに役立ったか」がベストかも。交通渋滞、トランジスタ、世界大戦、なんて三題噺が成立するとは(笑)! こういうひねくれたアイデアSFは実にいいなあ。あと、収録作の中では〈ホームカミング・デイ〉にあてた「取り替え子」がつじつまが合いそうで合わない不安感がいかにもジーン・ウルフという感じ。

■森薫『乙嫁語り』8巻 KADOKAWA/エンターブレイン ビームコミックス
 前巻の百合話の続きが1話。動物フェチの番外編。その後はパリヤの花嫁修業奮闘記、ということで、前巻のしっとりした雰囲気から一気に微笑ま初々しいラブコメモードに。それにしてもペンタッチがさらにとぎすまれているなあ。

■円城塔『これはペンです』 新潮文庫
 「叔父は文字だ」という親父ギャグ?的な発想から、いかにも円城塔らしい不思議に哲学的な考察がたたみかけてくる「これはペンです」と、超記憶力を持ちあらゆることを忘れることができない人物が獲得していく独自の現実知覚をシミュレートした「良い夜を持っている」がペアとなった一冊。
 解説でも指摘されていたけど、メタフィクション、小説そのものについての小説、という中にほのかな叙情が感じられるのがいいなあ。なぜこの文字列から自分が叙情を読み取るのか、という疑問を感じる読者、という構図にまで思い至ると、してやられたりの感。