2015年1月に読んだ本2015年02月01日 09時33分33秒

 年末年始のおかげでいろいろ読めたけど、新しい本はちょっと少なめ、かな? あと、SF比率わりと高し。

■アルフレッド・ベスター『虎よ、虎よ!』 ハヤカワ・SF・シリーズ
 もともとは高校時代に読んだっきりで、2012年に一度再読していて、今回は再々読。再読時にも、その面白さにあらためて驚かされたが、今回再々読してもその印象はゆるぎもしない。今回は銀背版で読んでみたが、自分の誕生前に翻訳刊行されていた本が今読んでもほとんど古びておらず、とにかく、めっぽう面白い。ハミルトンやヴォークトだと古びた部分をそれとわりきって楽しむ部分がどうしてもあるんだけど、ベスターについてはそういう感じがなくて、今読んでもSFとしてきっちり面白く、翻訳SFとしては破格にヴィジュアル感、リズム感、スピード感があって、しかもいい感じに下世話で、こういうタイプの作品はなかなか他にない。なにはともあれ傑作。
 あと、なんというか、小説、マンガ、アニメ等で、この影響下にある作品はこれまで思っていた以上に多いような気がしてきた。影響をうけたと思われるマンガを思いつくところでリストアップしてみると『サイボーグ009』『手天童子』『魔獣戦線』『スターレッド』『コズミック・ゲーム』などなど。この作品が翻訳紹介されていなかったら、日本のSFマンガの歴史はかなり違ったものになっていたのかも?

■筒井康隆『旅のラゴス』 新潮文庫
 徳間文庫で出た時に読んで以来の再読。
 一見エキゾチックな未開文明の世界を主人公が旅するうちに世界の真相が明らかになっていく連作短編。ある意味、文庫で250ページ程度の長さでジーン・ウルフが『新しい太陽の書』全4巻でやったことをやってしまったともいえる。しかも、その試みを、小説的にアクロバティックな技巧をこらすのではなく、とっつきやすい平易な作品として実現している点に逆に凄みを感じさせる。傑作。
 ところで、今書店にならんでいる本書には「売れてます」という帯がついているんだけど、なぜ今『旅のラゴス』??

■徳大寺有恒・島下泰久『2015年版 間違いだらけのクルマ選び』 草思社
 徳大寺有恒追悼として購入。毎年読むと変化が微妙で惰性感が感じられるタイプの本だが、久しぶりに読むと、クルマ雑誌を読まなくなった時期の知識の欠落がうまく埋まってくれた感じ。徳大寺有恒は巻頭コラムと囲み記事のみだけど、全体にシリーズの味わいは残したテイストでマル。

■中谷宇吉郎『雪』 岩波新書
 現在に至る「新書」と言う形式を世に出した岩波新書の初期の1冊。新書の原型でもあり、科学の世界をわかりやすく紹介するという書物としては今日のブルーバックス的な書物の元祖とも言える良書。
 内容的には中谷宇吉郎の随筆を一通り読んでいれば目にしたことのある話が多いものの、随筆には出てこない図表や写真もあるのでこちらの方がよりわかりやすい。

■貞本義行『新世紀エヴァンゲリオン』14巻 カドカワコミックス・エース
 なるほど、こう落ち着けたか。ループルートに入らず、丸く収まった感じ。ゲームで言えばトゥルーエンド? オマケの眼鏡(笑)まで含め、使える要素は使い切った感じ。
 しかしまあ、巻末エピソードがなんとなく『センチメントの季節』っぽいなあ(笑)…というのは話が逆ですね。すみません。

■ひかわきょうこ『お伽もよう綾にしき ふたたび』5巻 白泉社花とゆめコミックス
 那州雪絵が描いたらぞっとするホラーになっちゃいそうな題材が、ひかわきょうこにかかると人情話をまじえたほのぼの感が漂うのは人徳と言うべきか。
 とはいえ、まったく作風の違うひかわきょうこと那州雪絵が、異世界ファンタジーで『彼方から』の時期に『月光』、このところはこの『お伽もよう〜』に対して『魔法使いの娘』と、近いモチーフを使うことが多いのはちょっと面白いと思う。

■水見稜『マインド・イーター 完全版』 創元SF文庫
 大学時代以来30ン年ぶりの再読。驚いたのは、今読んでも古さを感じさせない圧倒的な完成度。SF的アイデアの思索実験としても、種々のテクニカルタームの使い方も、さらには社会風俗の描写にも、執筆から30年の時間をほとんど感じさせない。雑誌掲載版との照合等はしていないが、後書きでは最小限の修正しかしていないとのことなので、もともとの到達点がいかに先駆的、普遍的だったか、ということになるかと思う。
 初刊の早川文庫JA版で「サック・フル・オブ・ドリームス」「夢の浅瀬」の2編を未収録にしたことで、「その2編を選んで未収録にしたことに対する意図」を読者に邪推させてしまって作品的に損をした側面があったのかも、と、ちょっと思った(完全版では単にページ数を抑えるためであったと明かされている)。これらがなく、書き下ろしの「迷宮」が加わることで、M・Eの設定の矛盾感を低減してシリーズを小さく収めてしまったような印象を受けたのだったが、現在の視点で全編を読み返すと、そのような意図は「迷宮」からも感じられず、SF的ヴィジョンの広がりを素直に楽しむことができた。あらためて傑作。

■平井和正・石ノ森章太郎『新幻魔大戦』 秋田文庫
 平井和正追悼で再読。小説版も好きなんだけど、石森章太郎の画風が最も繊細で先鋭的だった時期のマンガ+絵物語で彩られた本作はこの版で読んでみることをオススメしたい。SFマガジン連載ということもあり、完全版で読むことが困難だったが、この秋田文庫版はある意味快挙だったのだが、文庫版で文字が小さいのが老眼にはちょっとつらい。現在は電子書籍化もされているので、これから読む人はそちらを選択してもよいかも。
 堕落し切った人類が幻魔にあっさり滅ぼされる冒頭から、時間跳躍とささやかな超能力しか持たないまま一人江戸時代に跳ぶヒロインお時の孤独感、その後の伝奇SF展開まで、今読んでもいろいろとこみ上げてくる。
 あと、不死身の魔人正雪って、『デスハンター』のラストの裏返しなんだ、と今回気づいた。人類ダメだからデスに任せた方がいい、というラストは『死霊狩り』ではなかったことになったけど、こちらはそのラストを直接否定している。
 中学時代はこれを徳間ノベルズ版を出版当時に読んでハマり、そのままリアルタイムで幻魔大戦ブームにのっかり、一通り読んだ。新興宗教ダメ小説になってしまった展開等からネガな意見もあったが、このブームがなければSFアドベンチャーもリュウも創刊されていなかったかもしれず、SF業界に与えたインパクトは作品以外にもかなり大きかったと思うが、その起点となった作品ともいえる。
 さらにいうと、アニメ、マンガ原作で鍛えられたサービス精神たっぷりの作風、という観点からすると、平井和正は日本のアルフレッド・ベスターに相当していたりしないか? と、ちょっと思った。

■江國香織『犬とハモニカ』 新潮文庫
 久しぶりに江國香織の独特の文体、言語感覚を存分に堪能できる短編集。初読はちょうど2年前で、今回は文庫になったので再読。
 オムニバスでなく、源氏物語翻案まで含むバラエティに富んだ構成にも関わらず、一冊全体を通底するテーマ性が感じられるあたりの短編集としてのバランスも職人芸的。
 振り返りみるに、江國香織の作家としての一貫したテーマはこの作品集から感じられるテーマ、「他者の異物感」「ディスコミュニケーション」なのかもしれないとちょっと思った。恋愛をテーマにすることが多いのは、それらの通底するテーマにとって相性のいい題材だから、という側面があるのではないか。
 そう思って改めてベストセラー合作『冷静と情熱のあいだ』を再考すると、色のイメージと正反対で赤が「冷静」で青が「情熱」という構図で、その「あいだ」では理解しあえない、という構造になっているのに今更ながら気がついた。今まで、赤単独で江國香織の長編として読めばいいや、と思っていたけど、青を「他者」が描くことでその断絶感がさらに強調されている、と、考えると、セットで読む意義はしっかりあるように思われる(とはいえ、青を2回読みたいとは思わないんだけど(笑))。

■上橋菜穂子『精霊の守り人』 軽装版偕成社ボッシュ
 遅ればせながら読み始めた。1作目の段階では、世界観は魅力的ながら、伏線がわかりやすすぎる印象、かな。アクションシーンは迫力あり。ぼちぼち読み進める予定。

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