2014年12月に読んだ本2015年01月05日 05時57分12秒

 今まで、あまり師走だから忙しい、ということはなかったんだけど、今年は妙に忙しく、ちょっとペースダウン。

■麻生みこと『海月と私』3巻 講談社アフタヌーンKC
 辺鄙な海辺の旅館の主人と、正体不明の仲居さんをめぐる物語。
 かけだし弁護士が活躍する著者の人気シリーズ『そこをなんとか』で培ったと思われる、各話の「わけあり」の宿泊客をめぐるあれやこれやはあいかわらずいい味出していて、この路線のままでもいくらでも続けられそうなんだけど、シリーズの共通設定である「仲居さんの正体」をめぐって思ったより展開が早く、『路地恋花』同様4巻で完結しそうな勢い、かな。

■万城目学『悟浄出立』 新潮社
 中島敦『わが西遊記』(「悟浄出世」「悟浄歎異」)にインスパイアされた、中国古典に材をとった短編集。ご本人が某所のインタビューで語られていた通り、文体がよくもわるくも「現代的」で平易に読め過ぎてしまうのがせっかくの題材とややミスマッチな点はちょっと残念だけど、その意気やよし! ということでなかなか楽しめた。
 とはいったものの、こうしてみると、改めて中島敦的衒学趣味と現代的な萌えの両立を平成元年の時点で実現(『後宮小説』)させ、デビュー直後からペダンティックな短編、長編を量産した酒見賢一という人はえらい人だったんだな、と思った。

■須藤真澄『グッデイ』 ビームコミックス
 じーばーを描かせれば右に出るもののない須藤真澄の新作。15歳以上になると「一生に一人に対してだけ、その人が死ぬ前日だとわかる(ただしランダム)」という設定を軸に、「その日」をどう告知するのか、「その日」をどう過ごすのか、についての十人十色の物語が哀感をこめて語られる。
 ストレートな人情話から、意外なシチュエーションと基本設定の組み合わせによるアクロバティックな作品まで、幅広く、哀感をしみじみとあじわえる秀作。

■石井好子『バタをひとさし、卵を3コ』 河出文庫
 没後に編纂された未収録作品集とのことで、全体に短めのエッセイが多いのだが、その限られたページ数で、制限字数が来たら話を打ち切ってしまうような自由さから、なんとなく『枕草子』っぽい雰囲気を感じた。

■米澤穂信『世界堂書店』 文春文庫
 人気ミステリ作家でもある編者が偏愛する奇想小説を思い入れたっぷりに集めて編纂したアンソロジー。強いて分類すればSFかミステリか、あるいは分類のしようのないような奇妙な味わいの短編群。そのセレクト、収録順までふくめ、ある意味理想のアンソロジー。いや、堪能しました。
 収録作に興味が出れば、各著者の作品集に進むことも出来るので、良質の読書ガイドとしても機能すると思う。