日曜劇場『この世界の片隅に』2018年09月19日 06時55分57秒

日曜劇場『この世界の片隅に』が無事最終回を迎えた。

映画版をクラウドファンディングから応援してきたファンの目からするといろいろ言いたいこともある訳だが、まあそれはそれ。

最終回まで観て、原作マンガの映像化として、民放制作のテレビドラマとしては、まずまずよい出来だろうと思った。

そのあたりは、原作にないキャラクターの配置やそれに伴うドラマ独自のアレンジも含め、手慣れた岡田惠和脚本の手堅さと言えるだろうし、セットや衣装を含め撮影面でもだいぶ頑張っていたと思う。
(特にラストの孤児のくだりは、演じていた子役の女の子のトラウマにならないか心配なくらいで、むしろ「ここまでやったのか」と驚いた)

読書メーターその他のネットの評判でも、ドラマをきっかけに原作を読んだ、という人が多く、実際、ドラマタイアップでの書店の展開も積極的で、原作の普及の面でもよかったと言えるだろう。

とはいえ、逆に気になったのが、映画版製作委員会への謝辞をめぐるあれこれだったりして。
それでなくとも「アニメである」というだけで劇場まで観に行く選択肢から外している人たちもいるであろう中で、「なんかドラマにアンチなことをいうめんどくさいファンがいる」ものとして、映画版を敬遠されてしまってもそれはそれで不幸な気がする。
(実際、そういうツイートも目にしたりしたのだ)

※自分を振り返ってみても、最初の二話くらいまでは、家で観ながら「あ〜、ここは本当はこうなのに…」みたいな、片渕監督による考証との「間違い探し」をしてしまっていたりしたので、まったく他人事でない(笑)。

まずは物議をかもしたっぽい「謝辞」という慣習について。

分野によって違うと思うが、例えば学術論文などで、テクニシャンやアドバイザー的なメンバーへの謝辞を入れるのに、事前の断りまではしていないと思う。「感謝の気持ち」という曖昧なものでもあるので、どのレベルまで入れる、入れないなども、明確なルールはないと思う。
これは、分野が違っても近い運用をされていると推察される。

映画版の製作委員会からのリアクションからすると、今回のドラマの謝辞もこれに近いパターンだったのではないかと思う。

一方で、テレビドラマを観る人の大多数は(劇場版のコアなファンの方も含め)、字幕のテロップは制作に関わったスタッフを順番に表示している、と捉えるだろう。

そうなると、劇場版の製作委員会がタッチしていたのに、様々な考証がおざなりにされていることについて、本来関係のない製作委員会(というより、片渕監督をはじめとする劇場版のスタッフ)に、質問、コメントが殺到したりするかもしれない。
そのくらいまでは容易に想定できると思うので、「関与していません」という正式コメントを早期に出しておくのは予防線としては当たり前のリアクションだったんじゃないかと思う。

まあ、そうなったらそうなったで、「せっかく感謝してもらったのにその対応は大人気ないのでは」とか、「原作でなく劇場版を連想させる描写があるのに、何の連絡もなしに謝辞だけですませたのか」みたいな両方の立場からのツッコミも当然ある訳だけど、そのあたりも、そう思う人がいるのは止められない、ということで。

要は、(建前として?)これはマンガ『この世界の片隅に』を原作としたドラマ化であって、片渕監督の劇場版が原作な訳ではない。
そうであるなら、「マンガになくて、劇場版にしかない要素」は、「入れる訳にはいかない」というのがむしろ筋というものかもしれない(もちろんグレーゾーンっぽいところはあって、それもまた物議の一因ではあったかも)。

また、テレビドラマの制作現場に、こうの先生や片渕監督と同レベルの時代・風俗考証を求めるのも(特に片渕監督の調査の実態を知っているだけに(笑))ちょっと酷なんじゃないか、とも思ったりもする。

一方で、(何らかの大人の事情?で)ドラマ版のプロモーションに劇場版に関する言及を入れることができなかったにしても、今回のドラマ化の企画そのものが、「劇場版のヒット」という現象と無関係な訳はないし、ドラマ版のスタッフだって劇場版の監督やスタッフのことはリスペクトしていただろう。
表立っては何かできないにせよ、せめて謝辞くらいは入れたかった、という気持ちの表れだった、という解釈もできなくはない?かもしれない。

そういえば、「『六身合体ゴッドマーズ』よりは原作に近い」という言説もあったんだけど、これもまあ、最終回まで通しての印象として、『ゴッドマーズ』はさすがに例えが極端で(笑)、『バビル2世』の原作とアニメくらいの違いじゃないかと思った。

ドラマから入った人が原作を読んだ感想は、普通にストーリーを追って感動しているものが多いが、中にはこうの先生の仕込んだ様々な「仕掛け」に気づいてくれる人もいると思う。

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