2017年11月に読んだ本2017年12月04日 20時29分29秒

 11月は趣味ではなく本業の方のコンベンションイベントの運営でどたばたしていて、月前半はほとんど読書が進まず。12/3の名古屋SF読書会に向けて、後半でちょっと巻き返したか。

■「この世界の片隅に」製作委員会 『この世界の片隅に 劇場アニメ原画集』 双葉社
読了(2017-11-14) ☆☆☆☆

 11/12でついに公開1周年。おめでとうございます。
 ということで、11/12で丸1年の連続上映を終了する新宿テアトルに(たまたま東京に滞在するタイミングだったので)駆け込みで鑑賞に行ってみたり(と、いってもイベントなしの通常上映にて)、あと、クラウドファンディング第2弾の海外渡航報告会に行ってみたり。
 そんな中、今月は関連書籍としてこの原画集が刊行。一部は公開前のササユリカフェの展示でみたものもあったけど、これだけまとめて観れると壮観の一語。巻末インタビューでは製作中の長尺版の話が出ているのも心強い。

■マージェリィ・W. ビアンコ・酒井 駒子『ビロードのうさぎ』 ブロンズ新社
読了(2017-11-18) ☆☆☆☆

 クリスマス向けの絵本売り場で猛プッシュされていた絵本。出版から10年、クリスマス絵本の定番であり続けているようだ。
 幼い少年のいちばんのお気に入りのビロードのうさぎのぬいぐるみをめぐる、ちょっと悲しい物語。そういえば、うちの実家にも、真っ黒になったパンダのぬいぐるみとか、まだ残っているなあ…

■伊藤計劃『ハーモニー』 早川書房 (ハヤカワ文庫SF)
読了(2017-11-18) ☆☆☆☆

 12/3の名古屋SF読書会の課題図書ということで、優先的に読んだ。単発でも読めるが、まず驚くのが、これが『虐殺器官』の世界のその後で、ディストピアの方向性として、その2作が両極に振り切っている、という点。
 もう1点、冒頭からhtmlもどきのetml言語による「タグ」が本文全体に付されているのが最大の仕掛け。最後まで読んで、そのetml言語の意味するところがわかることで生まれる異化効果こそが、個人的には本作の最大の読みどころだと思っている。
 とはいえ、このetmlの仕掛け、htmlをエディターで直書きした世代じゃないと、わからない可能性があるかもしれない(笑)。

■そのだ えり『ちいさなりすのエメラルド』 文溪堂
読了(2017-11-24) ☆☆☆☆

 いつもに絵本を読んでもらっていたりすのエメラルド、困ったことに、絵本を読んでもらわないと眠れない。一人になった夜、眠れないエメラルドは絵本を持って町のあちこちへ。
 そこで出会ういろいろな動物の子供たちに絵本をよんで聞かせるが、読み聞かせの途中で寝てしまっているエメラルドがお話しできるのは、自分が寝る前までのお話まで…
 絵本の読み聞かせそのものを物語にしてしまったかあいらしい小品。エメラルドが読んでもらっている物語の続きが気になる読者のために、その物語も付録?でついているという親切設計。

■ひかわきょうこ『魔法にかかった新学期』 1巻 白泉社(花とゆめCOMICS)
読了(2017-11-24) ☆☆☆

 ひかわきょうこ12年ぶりの新作とのこと。そういえば、このところ『お伽もよう綾にしき』のシリーズが描き継がれていたのだったか。
 『彼方から』も現代の高校でスタートしつつも、すぐに異世界に舞台が映ってしまったので、現代の高校生たちが活躍する物語はもしかして『女の子は余裕!』以来だったりするのか。
 物語は安定のひかわきょうこ品質。続巻は1年後。のんびり待ちたい。

■藤野千夜『編集ども集まれ!』 双葉社
読了(2017-11-25) ☆☆☆☆

 おそらく、永井豪『激マン!』に触発されて描かれたマンガ編集者視点での『激マン!』。作者本人がダイナミックプロ系ではなく手塚治虫のファンであることから、タイトルは『人間ども集まれ!』の本歌取りだろう。
 大人の事情で作者とその周辺の人物、該当の出版社のみ仮名ではあるものの、それ以外はマンガ、芸能、音楽、神保町のお店など、あらゆるものが実名で登場するので、80年代後半から90年代中頃までと、本作が執筆された2016年当時のマンガ界隈の風俗記録としてなかなか貴重な作品になっていると思う。

■こうの史代『ぴっぴら帳』 前編 双葉社
読了(2017-11-25) ☆☆☆☆
■こうの史代『ぴっぴら帳』 後編 双葉社
読了(2017-11-30) ☆☆☆☆

 新装版が出ていたので購入。実は未読だったのだが、『この世界の片隅に』原画展などを観てから読むと、改めて、画力の確かさに驚かされる。特に扉として縦長半ページで毎回描かれているイラストの今にも動き出しそうな躍動感や、カラーページで、淡い色を最小限にのせて描かれる多彩な表現は、この時点ですでに完成の域に達している。この画力、表現力あっての、後の数々の実験手法なのだな、と、納得。
 作品としては、鳥を飼う生活を始めたヒロインのとぼけた生活が描かれる4コマ。すずさんではないが、あちゃあ顔はたっぷり堪能できる(笑)。

■『The Indifference Engine』 伊藤計劃 早川書房 (ハヤカワ文庫SF)
読了(2017-11-29) ☆☆☆☆

 読書会の予習、副読書として、文庫で出た時に買ったままだった本書も手にとってみた。
 最初は、落穂拾い的短編集かと軽い気持ちで読み始めたら、読み進むごとに各短編のテーマ、モチーフ、アイデアが輻輳的に響きあう印象で、これはなかなかの名アンソロジーではないか。
 生体にソフトをインストールする、というアイデアのバリエーションとして、『ハーモニー』が生まれ、さらに『屍者の帝国』に展開して行ったことも、この短編集を読むと納得できる。