2017年6月に読んだ本2017年07月02日 08時46分22秒

6月は、ちょっと本業が立て込んできたので、ただでさえ読むのが遅いところ、さらにペース落ち。

■恩田 陸『蜜蜂と遠雷』 幻冬舎
読了(2017-06-04) ☆☆☆☆★

 4人のビアノの天才たちが奏でる多幸感あふれる四重奏。それぞれの演奏を文字で、文章でエモーショナルに描写する手法も「聴きごたえ」があり、多幸感にさらに拍車をかける。
 天才といえども、本番のコンクールまでにはむしろ常人以上の努力をしているし、それでも、それぞれの不安は残したまま臨む本番(除く1名)。その本番で、すべてを吹っ切り、あるいは、他の天才の演奏にインスパイアされ、本人も予想していた以上の名演奏が生まれる。その相互の影響が、予選から本選にいたる過程でさらに響きあい、お互いを高めあっていく。そして、コンクールの終わり(物語の終わり)は、これからの物語の「始まり」を暗示する。
 普通の作劇なら、コンクールに至る過程の不安や葛藤を主軸に据えると思うのだが、この物語は、選び抜かれた天才たちがお互いを高めあっていく姿をひたすらポジティブに語っていく。そして、それがまた心地よい。

■三上 延『ビブリア古書堂の事件手帖7 ~栞子さんと果てない舞台~』KADOKAWA (メディアワークス文庫)
読了(2017-06-07) ☆☆☆

 ひとまずは完結。思ったよりあっさり終わった印象かな。今回のお題はシェイクスピアのファースト・フォリオ。
 因みに、そのシェイクスピアのファースト・フォリオ、この後読むコニー・ウィリス『ブラックアウト』にさらっと出てきたけど、ちょうどその予習になったかも(笑)。

■石森章太郎『あしたのあさは星の上』 Pヴァイン(ele-king books)
読了(2017-06-12) ☆☆☆☆

 石森章太郎のSF絵本の復刻版。もともとは盛光社の「創作S・Fどうわ」から1967年に出版され、その後、1977年にすばる書房から復刊されたとのことだが、それ以来復刊されていなかったのは、主人公の坊やにさまざまな物語を語りかけるのが黒人の「チョコレートじいや」だったからだろうか。
 物語は5話構成で、ちょっとSFオカルト的な味わいのある「ぼうしが空をとんできた」から始まり、聖書の創世記とギリシャ神話のイカロスがまざったような、人の肌の色の起源についてのほら話「よるの色ひるの色」、UFOが残していったなぞの物体をめぐる、ちょっと「路傍のピクニック」を思わせる「空とぶえんばん」、地球滅亡への導入話「ねずみがいなくなった」、そして、太陽の爆発がせまる中、救出に来た宇宙人の前で人間たちが繰り広げる愚行を辛辣に描きつつ、ささやかな救いを用意する表題作「あしたのあさは星の上」まで、SF童話短編集としてもバラエティ豊かで、色鉛筆や水彩でざっくり描いた絵が彩りを添える。

■木村 研『999ひきのきょうだいのおひっこし』 ひさかたチャイルド
読了(2017-06-17) ☆☆☆

 たまたまガソリンスタンドの待ち時間に読んだ絵本。
 999個のたまごから孵った999匹のおたまじゃくしがかえるになり、小さな池はあふれかえらんばかり。
 ということで、お父さんとお母さんの先導で、999匹はひっこしを始めるのだが、その行く手には危険がいっぱい!?
 なかなかほほえましかったので、かえる好きの方にはオススメしたい。

<参考:シミルボンに投稿した上記絵本2冊のレビュウ>
https://shimirubon.jp/series/277
…なんだか興が乗ってきたので連載にしています(笑)。

■コニー・ウィリス『ブラックアウト』(上) 早川書房(ハヤカワ文庫SF)
読了(2017-06-25) ☆☆☆★

■コニー・ウィリス『ブラックアウト』(下) 早川書房(ハヤカワ文庫SF)
読了(2017-06-30) ☆☆☆☆

 このシリーズはあまりの分厚さに、今まで手を出していなかったのだが、今回は文庫版を片渕監督の推薦帯目当てに購入。まず、SFセミナー会場で買おうとしたら、『ブラックアウト』上巻だけ品切れだったので、その後、渋谷のブックファーストで買い足した。
 上巻冒頭から。コリンくんの史実調査能力が某アニメ監督(笑)を連想させる詳しさでちょっとほっこりした。そして始まる1940年代のロンドンの日常。なるほどこれは『このロンドンの片隅に』だなあ。
 そして下巻に入ると、本格化するロンドン空襲シーンが怖い。映画『この世界の片隅に』の防空壕のシーンを体験した後では、臨場感が半端ない。
 ということで、6月は『ブラックアウト』まで。『オール・クリア』の感想は来月(笑)。