2016年10月に読んだ本2016年11月03日 22時10分53秒

 10月は出張やら観劇やら観劇やら鑑賞やら鑑賞やらいろいろあり、月間個体移動距離もすごいことに。そんなこんなで活字分はやや少なめかも。

■たかみち『LO画集2-A -TAKAMICHI LOOP WORKS- (FLOW COMICS)』 茜新社
 読了(2016-10-04) ☆☆☆☆★

 忘れた頃に出た、デジタル世代のおおた慶文といえるかもしれない美少女イラストレーターたかみちの手になる、LO画集の第二弾。
 やはり継続は力と言うべきか、イラストもコピーもレイアウトも第一弾より研ぎすまさされている感じがする。まずイラストを観る。制作裏話と対照させながら1枚1枚観返す。さらに、ぱらぱらめくって楽しむ。1冊で三度でも四度でも美味しい。
 デジタル世代の描く背景美術やレイアウトの美しさ、モチーフとした現実の風景のデフォルメと潤色という点では、映画とイラストというメディアの違いはあるものの、新海誠の映像美ともちょっと共通点はあるかもしれない。

■北村 薫『月の砂漠をさばさばと(新潮文庫)』 新潮社
 読了(2016-10-05) ☆☆☆☆

 単行本は出てすぐに読んでいたけど、文庫であらためて再読。
 おかあさんとさきちゃんのほんわかとした日常をつづる連作短編集。表題からもわかる通り、だじゃれや言葉遊びがキーになる話が多い。
 内容的にはもちろんミステリではないのだが、一方で、あちこちに仕込まれたちょっとした描写が、描かれていない物語の背景をおぼろにうかびあがらせるあたりのちょっとビターな味わいは流石の北村薫品質。

■西尾 維新『掟上今日子の退職願』 講談社
 読了(2016-10-9) ☆☆☆

 どんどん出ている忘却探偵シリーズ。こちらは、いかにもミステリに典型的に出てくる典型的な4種類の「死体」をめぐる事件を4人の女性警部の視点から描いた趣向の点で、以前の『挑戦状』とペアになる連作短編集。その一冊としての構成、趣向に対して、ミステリとしてのアイデア面ではやや物足りない箇所もあるものの、まあ、それなりに楽しめた。

■西尾 維新『掟上今日子の婚姻届』 講談社
 読了(2016-10-10) ☆☆☆☆

 忘却探偵シリーズのキーキャラクター厄介くん視点の長篇。今回は、つきあう男性がことごとく不幸になると言う「厄女」からの相談事をめぐる物語。「謎」と「謎解き」が日常に根ざしている点ではやや北村薫的だが、基本巻き込まれ型キャラクターの厄介くんが、解かれた謎がもたらす結果に対して「立ち向かう」構図となるのがシリーズ中では異色でもあり、キャラクターの成長もちょっと感じさせる。
 ミステリとしての謎解き部分の完成度と、解けた謎の物語的な「重さ」が両立しており、これまでのところ、シリーズ最高傑作ではないか。また、おそらく本シリーズ中ではもっとも「西尾維新」らしい作品なのだろうと思う。

■水玉 螢之丞『すごいぞ!おかあさん きいろいばらの巻』 河出書房新社
 読了(2016-10-15) ☆☆☆☆
■水玉 螢之丞『すごいぞ!おかあさん テレビのカレーの巻』 河出書房新社
 読了(2016-10-17) ☆☆☆☆

 こんな水玉作品もあったんだ! 子育て雑誌への連載マンガで、毎回決まったフォーマット(見開きでほぼ同じコマ割り、主人公の二卵性双子とおかあさんの日常から、同じお題に対してキャラクターの異なるママ友3人の家庭内の事情を窺い知る趣向)の中でほのぼのしつつ、たまに挟まる濃いネタがいかにも水玉さんらしい。

■黒木 登志夫『研究不正 - 科学者の捏造、改竄、盗用 (中公新書)』 中央公論新社
 読了(2016-10-16) ☆☆☆☆★

 第一線級の生化学研究者でもある著者が、古今東西の研究不正をパターン分類し、実例をもとに研究不正の実態、背景などなどをわかりやすく解説した大力作。さる筋からの猛プッシュで読んだが、不謹慎ながら読み物として面白すぎた。(もちろんいろいろ肝に銘じねば)
 しかし79歳でこのクオリティの著書をコンスタントに書かれている著者には頭が下がりますね。これはすごい。

■植田正治『砂丘 La Mode』 朝日新聞出版
 読了(2016-10-21) ☆☆☆☆

 ササユリカフェに『マイマイ新子と千年の魔法』&『この世界の片隅に』の原画&絵コンテ展示を観に行った帰り、西荻窪らしさ?のにじみ出る書店でみつけて購入。今年、こんな本出てたのね。
 植田正治作品の中でも、いわゆる砂丘モードの時期のしゃれたシリーズで統一されたポップな一冊。

■こうの 史代『この世界の片隅に(前編) (アクションコミックス)』 双葉社
 読了(2015-06-04) ☆☆☆☆★
■こうの 史代『この世界の片隅に(後編) (アクションコミックス)』 双葉社
 読了(2015-06-04) ☆☆☆☆☆

 11/12のアニメ版が公開される前に改めて再読。広島から呉に嫁いだすずさんの日常がいとおしくなる秀作であると同時に、各話ごとにさまざまな演出、技法、実験がもりこまれており、実験の先鋭性では唐沢なをきとタメを張れるレベル(なにしろ、1話丸ごとカルタだったり、鳥の羽ペンを自作して絵を描いたり、ほとんどを口紅で描いた回もあったりするのだ)。
 その全原画と、作中に登場する昔の道具などがまとめて展示されていた呉市美術館での展覧会が11/3まで、ということで、一念発起して鑑賞してきた。片渕監督主催の探検隊レベルではないものの、地図観ながら呉と広島の街もちょこっと歩いてきたので、作中のもろもろの位置関係もなんとなく頭に入りつつある感じ。映画の公開が楽しみ。