2016年7月に読んだ本2016年08月02日 22時12分30秒

 今月は仕事はばたばたしている割に、月末の『カエアンの聖衣』読書会にむけてベイリー棚卸し読書。大森センセの訳文の軽妙さもあいまって、いやあ、進む進む。

■岸本佐知子『ねにもつタイプ』 ちくま文庫
 ちくま文庫から2冊出ている岸本佐知子エッセイ集と言うか奇想小噺集? 刊行順と読む順番が逆になったが、これもまた危険物(笑)だった。寝る前に寝床で読んだ1編がツボにハマって腹筋崩壊。電車の中でも寝床でも読んだら危険では、どこで読めばいいのだ(笑)。

■エラ・フランシス・サンダース『翻訳できない世界のことば』 創元社
 母国語の国民には一言で通じるけど、他の国の言葉で表現しようとすると文化背景等も含めてとても一言では伝わらないような単語を世界中から収集して紹介する異色?の絵本。日本語から選ばれているのが「ボケッと」「木漏れ日」「わびさび」となぜか「積ん読」(笑)であるあたりがちょっと身につまされる(笑)。

■バリントン・J・ベイリー『カエアンの聖衣』 ハヤカワ文庫SF
 大学1年(1983年)の初刊行時に読んで以来、33年ぶりの再読。けっこう内容忘れている感じだったが、まあとにかく面白い!
 因みに、この作品の再刊のきっかけになったという『キルラキル』は実はネットで1話分だけ観た程度です。すみません。

■バリントン・J・ベイリー『永劫回帰』 創元SF文庫
 宇宙の誕生から終わりまで、同じ出来事が無限に繰り返されているという永劫回帰の理を変えることに挑戦する主人公は、生体コンピュータとして機能する硅素骨を移植されており、それを人工チャクラとして使うことで認識を拡大されており、もともと常人以上の能力を持つ。一方別の事情から、生命維持のために宇宙船のシステムに依存してもいるのだが、そのシステムと一体化していることで、宇宙船の機能を自らの能力としても使えるという、二重三重の意味での人工的超人。
 といういかにもベイリーらしい(ワイド・スクリーン・バロックらしい)希有壮大な設定の割には、実は伏線がきっちり張られてラストにちゃんと収束していくのが、ワイド・スクリーン・バロック的にはこじんまりして感じるかもしれないけど、ベイリー作品の中ではSFとしての完成度は高いとも言えるかも。
 あと、本作はワイド・スクリーン・バロックとして見た場合、ベスターよりヴァン・ヴォクートっぽいようにも感じた。

■バリントン・J・ベイリー『スター・ウィルス』 創元SF文庫
 ベイリーの処女長篇。のっけから黒マントの宇宙海賊が暴れまくる、という設定、展開から、ちょっと松本零士のヴィジュアルで脳内再生された(笑)。
 あらくれ宇宙海賊が略奪した古代異星文明の遺産(なのかなんだかよくわからない)レンズはどうやら宇宙を内包しているらしい、というあたりはちょっとフェッセンデンの宇宙っぽかったりもするのだが、そのレンズの謎をめぐるストーリーが二転三転して最後は銀河を突破するような希有壮大な展開(なんとなく堀晃「アンドロメダ占星術」っぽい)にいたる怪作。ベイリーはやっぱり最初からベイリーだった(笑)。

■上條淳士『To-y 30th Anniversary Edition』1〜5巻 小学館
 上條淳士の原画展「LAST LIVE展」で、「LAST LIVE展」限定の前巻収納BOX目当てに大人買い(笑)。全巻とBOXにサインいただいてきました。これの前に、靖国神社脇の小さな画廊でやっていた武道館LIVEのミニ展覧会にも行ってきたんだけど、「LAST LIVE展」は画廊の壁全体を使ってあのシーンとかこのシーンとか、かゆいとことに手が届くセレクトで堪能。
 連載当初は意外と吉田まゆみっぽい雰囲気もあったり(まあ、アイドルものなので意識的だったんだろうなあ)、大友克洋の初期短編的な雰囲気もあったりして、ニューウェーブと少女マンガのいいとこどり、みたいな感じもあり。それが、To-yが音楽シーンをかけあがっていくにつれて、キャラクターも画面構成もどんどんとぎすまされていく。
 そうしてたどりついたラスト近くの展開は、今読んでも鳥肌もの。To-yを体験する作中の人々と、『To-y』という作品、上條淳士というマンガ家を体験する自分たちがシンクロしていたのを今更ながらに実感した。

■那州雪絵『超嗅覚探偵NEZ』3巻 白泉社花とゆめCOMICSスペシャル
 1巻から4年かかって出た2巻の後、また4年くらい間が空くのかと思ったら、思ったより早くコミックス出て完結。
 最終巻はなかなか驚愕の展開。こういうシビアでポリティカルな話を書けるのは那州雪絵と有川浩くらいではないか。(有川浩は那州雪絵の文庫に解説を書くほどのファンなので、あながちハズレでもないと思っている)

■バリントン・J・ベイリー『ロボットの魂』 創元SF文庫
 基本的なストーリーはSFロボットもの版「ピノキオ」。老職人に作られたロボットが自分探しの(というか、ロボットの自分に「意識」はあるのか、という哲学的疑問の答えを求める)旅に出て、遍歴の末に、生まれた家に戻って答えを得るまでの物語。
 なんだけど、主人公のロボット、ジャスペロダスのやることなすこと、アナーキーで破天荒。なりゆきのまま盗賊団の列車強盗の手助けをしたかと思えば、小王国をクーデターで乗っ取ったり、心を入れ替えて大帝国の中枢で働いて頭角を現したかと思えば、裏切りにあって、その腹いせのまたクーデター起こしたり。
 「人間の意識とは何か?」という命題をめぐる議論がこれでもかとぶちこまれながら、アナーキーなピカレスクロマンなので二転三転ぐいぐい読める。傑作。

■バリントン・J・ベイリー『光のロボット』 創元SF文庫
 『ロボットの魂』の後日談。世界で唯一人間と同じ「意識」をもつジャスペロダスに対して、超高度な知能を持った結果として、人間の「意識」の存在に独力で気がつき、なんとかそれを手に入れようとするロボット集団。人間とロボットの相克に、ロボットでもあり人間でもあるジャスペロダスが最後にくだす決断とは…
 2作に共通して、「ロボットは人間の命令にさからえない」という基本設定はありつつも、ロボット工学三原則は一顧だにしないアナーキーぶりが楽しい。