2016年4月に読んだ本2016年05月06日 17時50分04秒

 4月は読書の傍ら、これまでの『双生児』解析シリーズをまとめた「『双生児』ひみつぶっく」を作っていたこともあり、ちょっと読んだ本は少なめ&薄め。
 並べてみると、小説よりも、生涯なんらかの職業にうちこんだ女性の体験談がこの月に集まっている感じなのは、特に意図はなく単なる偶然です。

■舘野仁美・平林亨子『エンピツ戦記 誰も知らなかったスタジオジブリ』 中央公論新社
 永年ジブリ作品の動画チェックをされていた舘野仁美さんの視点から見たジブリの姿をまとめた1冊。動画チェックはアニメの品質管理である、という自負が感じられ、本人のスキルアップからその後の人材育成まで含め、業界を超えて通じる内容もいろいろある。食品関連の香味・品質設計から品質保証までやっている身からは共感できる点も多々あり、興味深く読んだ。
 とはいえ、後書きにあるように舘野仁美さんのもともとの原稿にあった赤裸々さや辛辣さを平林亨子さんがソフィスティケートしてしまっているのはちょっと残念に感じる。発表媒体がジブリ公式だったとはいえ、もっと辛口でもいいくらいじゃないか。ネタはいいだけに、アレンジ次第ではもっと面白くなったかもしれない。
 個人的にはラストあたりの吉田健一氏のエピソードが拾い物だった。

■竹宮惠子『少年の名はジルベール』 小学館
 こちらは『エンピツ戦記』とは対照的に「ここまでセキララでいいのか!」とびっくりするくらいの竹宮惠子自伝。
 いわゆる大泉サロンができあがっていく過程の多幸感から、転調してアマデウス的な葛藤からの大泉サロン解散?を経て、『ファラオの墓』でマンガ家としての手応えを掴み、ライフワーク『風と木の詩』を実現するまでが熱っぽい筆致で活写される。
 どうしても発表したいのは『風と木の詩』だけど、マンガ家としてのフリーハンドを獲得するためにはまずヒット作を出そう、ということで『ファラオの墓』はその目的で「売れる要素」を意図的に仕込み、読者の反応をみつつフィードバックしていった、というのはマンガ家のキャリアデザインという考え方としても興味深い。
 そうしてマス向けのプロダクトを愚直に作り込む中でさまざまな手応えをつかんで、最終的には自分の目標を達成していく、というまわり道っぽい道程にはものすごく共感するところがあるなあ。

■岸本佐知子 編訳『楽しい夜』 講談社
 岸本佐知子セレクトの「ちょっと変わった短編小説」アンソロジー。家族の奇妙な距離感をモチーフとした「ノース・オブ」「火事」に始まり、もう一つのあり得た人生かもしれない人生をよすがとした女性の哀歓がビターな「ロイ・スパイヴィ」、大衆心理の暴走をリボンが象徴する「赤いリボン」、グロテスクなイメージが炸裂する「アリの巣」「亡骸スモーカー」、悪夢をスケッチしたかのような味わいの「家族」、タイトルとは裏腹に一人の女性の孤独をビターに描く「楽しい夜」、古代の巨人が山からよみがえる「テオ」、骨董屋と呪符というモチーフを現代にアレンジしたかのような「三角形」、死出の旅立ちをちょっとユーモラスに描く「安全航海」まで、特にアンソロジーとしての統一テーマはないが、編者の趣味、スタンスの一貫性を感じる良いセレクト。

■石井好子『人生はこよなく美しく』 河出文庫
 没後に編纂された落ち穂拾い的原稿集(内容的に随筆集、エッセイ集ともいいがたい)。石井好子が上流家庭を訪ねてその家庭料理をレポートする雑誌ミセスの連載企画などは、内容的にも長さ的にも独立した本にはしにくかったのだろうし、他の原稿も、もともと書かれた趣旨・目的が透けて見えるかんじはあるものが多い。
 とはいえ、この本でしか読めない原稿や、そこに書かれる内容は石井好子フリークには貴重なものでもあるので、ある意味、これまで出版された著書を読み尽くした上級者向け、という印象かなあ…