2016年2月に読んだ本2016年03月19日 08時46分17秒

 今月はまあ、ジーン・ウルフ『ウィザード・ナイト』月間ということで…

■ロン・ミラー『宇宙画の150年史:宇宙・ロケット・エイリアン』 河出書房新社
 単なる宇宙画の画集かと思いきや、宇宙開発史と映画やSFを含む文化史が融合した読み応えたっぷりの一冊。これはいい。

■手塚治虫『火の鳥』3巻 角川文庫
 毎年恒例の命日再読。この角川文庫版では本来の発表順の「宇宙編」の代わりに次の「ヤマト編」と、マンガ少年連載でも後期にあたる「異形編」がカップリング。次の4巻が「鳳凰編」なので、歴史ものが続いてしまう印象。やっぱり本来の順番で読みたい感じがする。
 ともあれ、今読むと、手塚治虫の作品は執筆時期が遡るほど凝縮度が高い感じがする。「異形編」がページ数なりの中編という印象なのに比べ、「ヤマト編」は中編のページ数に長編が収まってる感じ。そういえば数年前に読んだ『0マン』あたりはコミックスなら3冊、文庫で2冊だけど中味は大河ドラマという印象だった。

■ジーン・ウルフ『ナイトI』 国書刊行会
■ジーン・ウルフ『ナイトII』 国書刊行会
 いつもの「技巧派」ジーン・ウルフのこわもて感からすると、テンポの良い場面転換の連続と平易な訳文もあいまってさくさく読める。が、いかにも後から伏線になりそうな「語り/騙り?」が随所に盛り込まれている感じ。
 まあ、『指輪物語』『ナルニア』あたりのファンタシーの系譜で、騎士についての物語で、なおかつジーン・ウルフ作品でもある、という普通の感想はたくさんあると思うので、ちょっと別の視点からの感想など。
 このシリーズを「少年が突然異世界に行って冒険の旅をする」と要約してしまうとちょっとライトノベルっぽいかんじもするのだが、実際、序盤はけっこうファミコンのRPGっぽい要素も散見される。例えば、敵を倒してお金や武器を(かっぱいで(笑))手に入れたり、突然イベントが起こってレベルアップしてしまったり…。まあ、RPGゲームのルーチンを生々しく描写するとけっこうえぐい、ということもわかる(笑)。あと、劇中の武器屋(上述の通りの事情(笑)でリサイクル品多し)の豊富すぎるラインナップにはちょっと鎌倉大仏前の武器屋を思い出した。
 ラストは解説にもあったけど、「ここで終わるのか!?」という感じ。全体に、読んでいると新しい人名が出てきたとき、「あれ? この人名、前の方の独白の中にもあったな」と戻って読み返したりしたけど、最後まで読むと、改めて全部読み返したくなる感じ。
 あと、いったん読了してから冒頭のリストを読み返すと内容がわかるようになっていてちょっとうれしい。『ナイト』ではまだ語られていない先読み的な仕込みもいろいろあるのが楽しい。

■石井好子『私のちいさなたからもの』 河出文庫
 没後の編纂ということで、落ち穂拾い的エッセイ集かと思って軽く読み始めたら、実際、落ち穂拾い的側面は強いのだが、石井好子的には定番といえる「料理」にも「音楽」にも寄り過ぎず、また、ちょっとびっくりの人脈広すぎる交友録(ジャコメッティとも親しかったのか! とか)も随所に挟まり、全体として筆者のライフスタイル、人生観がそこかしこににじみ出る構成となっており読む前に予想していた以上に楽しめた。
 惜しむらくは、「たからもの」としてエッセイに登場するいろいろなものの写真は(冒頭4Pだけカラー写真でちょっとだけ紹介されているけど)もうちょっとたくさんいれてほしかった。

■吾妻ひでお『マイ・コラボレーション・ワークス 吾妻ひでおコミカライズ傑作選』 復刊ドットコム
 主に石森作品のコミカライズだが、ヒロインや周囲のキャラクターのカオスぶりは『ふたりと五人』や『やけくそ天使』に通じるものがあって、むしろ今読んだ方が楽しめる感じ。巻末のインタビューは当時のマンガ業界に関する貴重な証言だなあ。

■ジーン・ウルフ『ウィザードI』 国書刊行会
 『ナイト』の驚きのラストから、どうつなげるのか、とかまえていると、けっこうストレートにストーリーが続いていて逆にびっくり。ただし、主人公視点ではその間に……ということが徐々に語られていく。
 読んでいる間のヴィジュアルイメージは、概ね、ニュージーランドロケを敢行した全六部作くらいの大作ファンタジー映画、みたいな感じかなあ。そのうちホントに映画化されたりして。
(『ウィザードII』は2月中に読み切れなかったので、来月につづく(笑))