2015年6月に読んだ本2015年07月09日 22時57分52秒

 会社生活25周年の休暇で北海道旅行など。そんなこんなで読書量は少なめ(まあ、このところいつも少ないか…)。

■スタニスワフ・レム『泰平ヨンの未来学会議[改訳版]』 ハヤカワ文庫SF
 故深見弾氏が集英社ワールドSFから上梓した後、埋もれていた作品を大野典宏氏が改訳。本作を原作とする映画『コングレス未来学会議』の公開に合わせた刊行(で、いいのかな)。
 未来学の学会に参加した泰平ヨンだが、テロに巻き込まれ右往左往…そればかりか、学会の会場となった国では様々な幻覚剤が炸裂し、現実と幻覚の区別もつかないまま、ディストピア的な世界を遍歴する羽目に。陰鬱、グロテスクでありながら、それでもなおユーモラスな傑作。
 余談だが、冒頭の「学会」とそれに集う人々の描写がなかなかリアル。学会に参加しまくる「逍遥派」の学者の気持ちはちょっとわかる。因みに海外のビール学会は昼からビール飲み放題ですよ(笑)。

■辻村美月『ハケンアニメ!』 マガジンハウス
 作者がほんとうにアニメが好きなんだろうなあ、ということがひしひしと伝わる一冊。イケメンでカリスマ的な作品を作るが、めったに新作を作らないアニメ監督にふりまわされるプロデューサー(♀)、一方、そのライバルとなる大手制作会社所属の新鋭監督(♀)、それらの作品に原画を提供しつつ、メジャーになる一歩手前のアニメーター(♀)、の3人のアニメへの愛、作品への真摯な姿勢、そして周辺の人間関係が主筋。
 冒頭から出てくるイケメン監督のモデルは幾原氏しかいないだろう、と思って読んだが、最後の取材リストで筆頭に上がっていたので納得(笑)。とはいえ、その監督の代表作が『ウテナ』より『まどマギ』っぽい魔法少女ものだったり、ライバル監督の作品が『ファフナー』っぽかったりするあたりはいろいろと時流をとりいれてもいる感じ。
 あと、後半はほとんど『県庁おもてなし課』だったけど、読みやすくて、読者をぐいぐいひっぱる熱量のある文章力、構成力、という点では有川浩に近い作風ではあるかも。

■武政三男『スパイスの科学』 河出文庫
 スパイスの種類と特徴、使い方がわかりやすくまとめられた一冊。個人的にはもう少し、著者本人のエモーションが迸るような本の方が好みなのだが、実用書、参考書としては一級品かと思う。

■江國香織『ちょうちんそで』 新潮文庫
 とある介護サービス付き高齢者向けマンションを舞台に、入居者の中では若手といえる50代女性が「架空の妹」と過ごす日常のスケッチから始まり、そのマンション住人たちの日常を点描的に描いていく風変わりな一編。
 章ごとに視点の変わる短い章の連なりを読み進めるうち、徐々に登場人物同志の関係が読み取れてくるが、人物間の具体的な邂逅は最小限で、ある意味「何も起こらない」。最後の最後に、登場人物たちの関連性に大きな影響を及ぼす事態が起こることがわかるが、起こる前の時点で物語はばっさり断ち切られ、「何かが起こる」予感が不思議な余韻を残す。
 久しぶりに文体、構成など、江國香織のテクニシャンぶりが存分に味わえる。