2014年11月に読んだ本2014年12月20日 08時55分18秒

 この月はわりと読書した感じ。あと、名古屋の『闇の左手』読書会に参加(ちょっと間が空いちゃったけど、気が向いたら感想書くかも)。

■田口久美子『書店繁盛記』 ポプラ社
 ちょっと前に読んだ『書店不屈宣言』から遡って。
 タイプの全く異なるリブロとジュンク堂という二つの書店を経験した著者の視点でしか書けない書店員の仕事に関する思想面から実務面までに到るよもやま話。興味深く読んだ。

■ロバート・F・ヤング『時が新しかったころ』 創元SF文庫
 恐竜擬態タイムマシンが活躍する時間冒険SF。個人的には『リュウの道』の頃の石森章太郎の絵柄で脳内再生されて楽しく読めた。ジュブナイル向きかも。
 同邦題の短編から長編になっていろいろ変わっているけど、一番変わったのは短編版では最初からデレていた感じのヒロインがツンデレになっていた点かも。さすが通人ヤング!?

■ロバート・F・ヤング『宰相の二番目の娘』 創元SF文庫
 短編「真鍮の都」をベースにした長編。古式ゆかしい時間SFのガジェットとモチーフになったアラビアンナイト世界が渾然となって、適度なレトロ感がいい味わいになってて、楽しく読了。こちらは板橋しゅうほうの絵柄で脳内再生された。
 伊藤典夫先生には「15歳少女といちゃいちゃしてるだけ」と酷評されてた作品だけど(笑)、まあ、短編版よりヒロインの年齢が下がってつるぺたツンデレ少女になっているあたりはさすが…(以下略(笑))。
 これが書かれたのが1985年というと、その当時の出版作品としては「今さら」感が強かったと思うので、リアルタイムじゃなくて今くらいに訳された方がこの作品にとっても幸せだったかも。いわゆる「翻訳SF」というよりライトノベルとして読むのが吉。
 しかし年に2冊もヤングの長編が訳される、そんな2014年…(笑)。

■東原和成他『においと味わいの不思議』 虹有社
 ワインをモチーフに嗅覚、味覚、感性科学の最新知見をわかりやすく紹介した講演会の内容をベースにした啓蒙書。ブルーバックスが読めるレベルの読者向けとして考えるとめったにないレベルの良書。有機化学的な内容を説明されている方がお二人とも科学者ではないにもかかわらず可能な限り正確さを心がけてお話しされているんだけど、それだけに、数カ所だけみつけてしまった化学上の誤記がちょっとだけ残念(重版されるような機会に直せないものか…)。

■早野龍五・糸井重里『知ろうとすること』 新潮文庫
 原発事故の影響に関する現場リポートでもあり、放射線についての基礎知識の入門書としても、とてもわかりやすい良書。
 こういう本を広く読んでもらうためには「糸井重里」というネームバリューが有効で、その点をおおいに意識しての企画と思われる。

■村上信夫『帝国ホテル厨房物語 ー私の履歴書』 日経ビジネス人文庫
 幼児期に関東大震災で九死に一生、青年期に陸軍、シベリア抑留まで経験しながら、生還して東京五輪選手村の食堂運営を成功させ帝国ホテル総料理長、専務まで到った経験を苦労話成分は少なめに淡々と語っているのが逆に凄みを感じさせる。しかも、後年は鉄拳制裁やレシピの属人的秘匿を排して時代に合わせたマネジメントに注力したあたりも好感を抱かせる。
 あまり直接比較するものではないとは思うが、この体験談を読んでしまうと、幼年期は貧しかったものの株屋で小学生くらいの年頃から「遊び」を嗜み、戦場には出ず国内で終戦を迎えた某時代小説家が私生活で実践していた封建的な「男の作法」はちょっと空々しく感じられるかも(随筆として読む分には面白いのだが)。

■中谷宇吉郎『寺田寅彦 我が師の追想』 講談社学術文庫
 中谷宇吉郎が戦後間もなく出版した寺田寅彦にまつわる随筆集の文庫版。この内容で通読すると、中谷宇吉郎の師匠愛があふれすぎていて、一冊の本としてはちょっと居心地が悪く感じる側面もあるものの、「漱石門下の名随筆家」という一般的イメージが強いであろう寺田寅彦の科学の上での業績を知る上で貴重な資料。

■ピュア百合アンソロジー「ひらり、」Vol.14 新書館
 なんとこれが休刊号。コミックスのレーベルとしては存続するとのことだが、掲載されていたマンガ家の方々の発表舞台が一つ消えるのは残念。
 もともと、個人的にフォローしてきた橋本みつる、ささだあすか、桑田乃梨子の新作短編が読めるということで購読を始めたのだったが、久しぶりのマンガ雑誌購読で、雑誌(アンソロジー)ならではバラエティ感を久しぶりに楽しめた。この雑誌がなければ知る機会がなかっただろう、という個人的な収穫はふかさくえみと袴田めらかな。

■袴田めら『理由もなく悲しくなるの』 新書館ひらり、コミックス
 もともとは「ひらり、」に発表された連作短編。「ひらり、」が休刊したのでエピソード2編を描き下ろしてのコミックス化。メインの二人のいちゃいちゃしながらも些細なことでお互いに嫉妬したりする関係性の周囲に、それを外から傍観せざるを得ない第三者の「ちょっと黒い心理」を描くエピソードを配するあたりが著者の真骨頂があると思った。前作「さろめりっく」はそういう心理的ダークサイドがメインの二人の間のものに留まっていたが、本作で作風の幅が広がったように感じる。